第48話 不穏な計画のこと(※残酷な描写アリ)

不穏な計画のこと








友愛をやっちゃう・・・?


どういうことだ。


襲撃計画か?




そろそろ皆殺しにしてやろうと構えていたが、ここはもう少し我慢してこいつらの話を聞こう。






「あ?いつだっけ?」




「ばーか、今週だよ、今週の金曜日ぃ。」




「あー・・・そうだったそうだった。」




今日は月曜日なので、あと4日か。




「あー!早くなんねえかな金曜日!楽しみすぎる!」




「今から興奮してんじゃねえよ!ぎゃははは!」




「だってよー、女子高生だぜ!女子高生!!興奮もすんだろー?」




「生きた女ってだけでなんでもいいわ俺ぇ!」




「もうババアでもいい!」




「男はミナゴロシだあ!ぎゃははははははは!!!!」




・・・よし、情報収集のために1匹残して殺そう。


正直こんな品性が虫以下のアホ共にあそこがどうこうできるとも思えないが、万が一ってこともある。


もうこれ以上こいつらの話聞いてたら、振り切れた怒りで冷静さを失いそうだ。






馬鹿が馬鹿話をしている隙に、手芸店から出て靴屋や服屋の影を移動しつつ回り込む。


馬鹿どもは懐中電灯を置いて話しているので、暗闇に慣れた目にはその知性のかけらもなさそうな馬鹿面がよーく見える。


手裏剣の射程圏内までたどり着いたので、深呼吸をしつつ中腰になって狙いを定める。




息を吐き、止める。


引き絞った右腕から放たれた十字手裏剣が、女子高生女子高生うるさかったヤツの後頭部に深々と突き刺さった。




「あ、ああええ・・・?」




「興奮しすぎてラリッてんじゃねえよ!ばーか!!」




そのまま2投目を放つ。


これも隣のヤツの後頭部に命中。


続けざまに3投目、4投目。


ゲラゲラうるさい奴は首筋、ババアでもいい男は横を向いていたのでこめかみに突き刺さる。




「・・・えっ?」




「おい・・・おい?」




4人がぐらりと倒れて痙攣しながら血を流す様子に、やっと残りの4人は異変に気付いたようだ。




「なっ・・・!なんだっ!?」




「なにこrギャアアアアッ!!!アアアッ!!!!!」




「なんだよお!?なんなんだよお!!!?!?!?!?」




「いでええええ!いでええよおおおお!!」




「どこだぁ!!!どこにいやがるううう!!!!!」




残す予定の1匹のふとももに手裏剣が命中。


地面に倒れてのたうち回る仲間に、男たちはパニック状態だ。




あまり持ってこなかった十字手裏剣の在庫が尽きたので、剣鉈を引き抜いて投げる。


アホ面をさらして狼狽していた男の胸に突き刺さり、仰向けに地面に倒す。


残りは2匹だ。




奴らは俺がどこにいるかもわかっていないのか、懐中電灯を持って周囲をグルグルと照らすばかりだ。


立ち上がって走り出す。


足音に気付いた1匹がこちらに懐中電灯を向ける前に、ヘルメットのライトを最大光量で一瞬照らす。




「あぁ!?くるな!くるなあああ!!!」




急な閃光に目が眩んだ男は、喚きながらマチェットを振り回す。


振り回したマチェットが上を向いた瞬間に、そいつのがら空きになった右脇の下に向けて抜き打ち。


動脈を切り裂いた刃を旋回させ、首の左側を切りつける。


以前の刀よりいい物だけあって、かなりの切れ味だ。


骨に当てなければするりと切れる。


噴水のように血液を飛び出させる男を蹴り倒し、残る1匹に向かい合う。




「なんだよ・・・なんなんだよお前・・・み、みんな殺しやがってぇ・・・」




狼狽し、血走った目でこちらを睨む男。


ブルブルと震えながら、手に持ったマチェットをこちらに向けてくる。




「ゆ、ゆるさねえ・・・ゆるさねえぞ・・・」




人間以下のカスでも仲間は大事らしい。


知ったことではないが。




「虫けらの分際で・・・一丁前に人間様の言葉使ってんじゃねえ!!」




叫びながら間合いに踏み込む。




「だってめえええええ!!!!・・・えっ?」




やけくそになって放たれる、いつかの原田並の切り下しを体を横に開きながら躱し、右の首筋をざくりと払う。




「ご・・・や・・・やだ・・・あっ」




「・・・キーキー惨めったらしく鳴いてるほうがてめえらにはお似合いだ。」




世にも情けない顔でそいつは前のめりに倒れ込み、死んだ。




周囲を確認し、ふとももに手裏剣を刺したヤツ以外の死亡を確認する。


床に転がって歯を食いしばって痛みに耐えているヤツに近付き、手裏剣をブーツで軽く蹴りつけた。




「いいいいいいぃ!!!や、やめで!やめでぐだざい!!」




よし、まだ元気だな。


出血量からしてすぐに死ななそうだ。


奴らが座っていた椅子の一つを、そいつの前まで引きずってきて腰掛ける。


刀の切っ先はヤツに向けておく。




「俺の質問に正直に答えろ。いいな、正直にだぞ。」




「だ・・・だす、たすけてくれます・・・か?」




「そいつはお前の態度次第だ。いいな?」




「はい!はい!!」




「よし・・・さっき言ってた『友愛をやっちゃう』計画な・・・詳しく聞かせろ。あと、仲間がどれくらいいるのかもな。」




生き残りの男、高校生くらいか?


まあいいや。


そいつは顔中涙やら鼻水まみれにしながら、俺に必死で話し始めた。


死への怯えからかかなり動揺していたが、ヤツの話をまとめると次のようになる。






・こいつらの集団は、中学校時代の同級生とその先輩後輩で構成されている・・・いわゆる『半グレ』というものだ。


・仲間はこいつらも含めて全部で27人。


・世界がこうなってから、その中の1人の実家である建設会社の倉庫を拠点にしている。


・ゾンビやら生存者やらを襲っては楽しんで殺したり、物資を奪ったり、女性は暴行してから殺してきた。


・最近、生存者が見つからなくなってきたので、物資補給も兼ねて友愛を襲撃する計画を立てた。


・以前から友愛を偵察しており、物資が潤沢にあるのは確認済み。


・倉庫には重機や発破に使う爆薬があるので、それを使って門を破壊して雪崩れ込む予定。


・警官は、近くの銃器店を物色して手に入れた猟銃で対応する。






仲間の出自や数を聞いた時は少し抵抗したが、無事な方の太腿に軽く刀を刺したらスラスラ喋ってくれた。


美しい友情であるなあ。




しかし・・・なんというか、とんでもなく馬鹿な計画だ。


爆薬や猟銃は確かに脅威だが、重機やらダンプやらで町中を移動すればかなり離れた場所からでもその騒音で気付かれる。


なにより爆薬を仕掛ける間、警官たちがボーっと待っててくれると思ってんのか?


だいたい門を爆破したとして、その大穴をどうやって塞ぐつもりなんだよ。


ゾンビが大挙して押し寄せてくるぞ。


若さと馬鹿さ故の計画性のなさだろう。


こいつらどう見ても勉強ができるわけでも、賢いわけでもなさそうだし。


これまではノリと勢いで何とかなってたのかもしれないが、この計画は間違いなくとん挫する。




警官たちも馬鹿ではないし、避難所にはあの神崎さんや宮田さん、場合によってはモンドのおっちゃんもいるのだ。




だが、それでもこいつらを放置しておくことはできない。


重機が移動する音でゾンビを多数連れてこられても困るし、万が一爆破でもされたらそのゾンビ共が開いた穴から避難所に入ってくるかもしれない。


今回ここでこいつらと遭遇できてよかった・・・


かなり低い確率ではあるが、大惨事になるところだった。




以前宮田さんが言っていた、友愛を偵察している不審な生存者っていうのはこいつらだろうな。


・・・こいつらだけとは言えないのが怖いところだが。




こいつらの拠点の住所もわかったし、これ以上有益な情報も聞けないな。


質問を中断し、奴らの死体から十字手裏剣と剣鉈を回収して回る。


汚いので死体の服で拭うことも忘れない。


回収したので、再びヤツの前に立ち、ふとももから最後の手裏剣を引き抜く。




「いだっ!?」




「何か、俺に話していないことはないか?」




「ううぅ・・・ぜ、ぜんぶ話しましたぁ!ほんとですゥ!!」




「よし、わかった。」




刀を拭き、鞘に戻す。


それを見てヤツの表情は明るくなったが、俺が足元からおもむろに血まみれの剣鉈を持ち上げたのを見て再び絶望に染まる。




「お仲間が地獄で待ってるぞ。迷子になるといけないから、送ってやろう。」




「あっいっえっ・・・えっ?ちょ、ちょちょ、ちょっとま、まって・・・まってえ!!」




奴は涙を流しながら俺に懇願してくる。




「ぜんぶ!ぜんぶ話しましたっ!!ぜんぶ話したのに!!ぜ、ぜんぶはなしたら助けてく、助けてくれるってぇ!!」




「そんなこと一言も言ってないよ、間抜け。それにな・・・」




「そっそんな!ぞんなあああああ!!やべでぇ!!やべっ!!?!??」




上段から思い切り振り下ろした剣鉈が、ヤツの頭部に深々とめり込んでその下の床まで食い込む。


怒りのあまり力加減を間違えたようだ。






「―――全部話した『から』殺すんだよ。」






リュックとエコバッグ、それに奴らの持っていたマチェット2本を拾って車へ歩き出す。


荷台に下ろした後駐車場を見回すと、奴らが乗ってきたであろう中型トラックを2台見つけた。


拠点にしている建設会社の名前が書かれているから間違いないだろう。


これは避難所で使ってもらおうか。


奴らから鍵を回収しているので、仲間が見つけても乗れないだろう。




それに、悠長に回収を許すつもりはない。


金曜日まで待つまでもない。






明日にでも乗り込んで・・・皆殺しにしてやる。






俺は善人じゃないが、殺す相手は選んでいる。


命の選別なんて傲慢だろうが、生きていてはいけない人間は確かに存在しているのだ。




だが、とりあえず宮田さんに報告する必要がある。


すぐに避難所まで戻ろう。




車内で確認すると、ベストと上着に返り血が付着していたので脱ぐ。


そこまでひどく汚れてもいないので、洗濯すれば大丈夫だろう。


美玖ちゃんに心配されるといけないので念のために脱いだだけだ。






「田中野さん、こんにちは!・・・な、何かありましたか?」




門番をしていた森山くんが心配そうに話しかけてくる。


そんな怖い顔してたかな?


気をつけねば。




「いやあ、ちょっとゾンビと虫がいっぱいいる所にいたもんで・・・宮田さん、どこにいます?」




「うわー、大変ですねえ・・・あ、巡査部長なら柔道場にいらっしゃいますよ。」




「どうも~」




お礼を言って車を停め、校内へ。


どうも気が昂っているみたいだなあ、顔が普通に戻るまでは美玖ちゃん達には見つからないようにしないとな。




「田中野さん、こんにち・・・何かありましたね?」




言ってるそばから神崎さんに見つかってしまった!


察しがいい神崎さんに、おそらくごまかしは通用しないだろう。




「・・・ええ、そのことで宮田さんに報告しないといけないことがあるんです。神崎さんも来てくださいますか?」




「はい、嫌だと言ってもついていきます。そんな顔の田中野さんを放っておけません。」




押しが強い!


そんなにヤバい顔してるの俺!?


顔をムニムニと揉みながら、柔道場まで歩く。






柔道場に着くと、宮田さんがダンベルで筋トレをしていた。


ちょ、ちょっと待ってそれ両手で待ちあげるタイプのやつじゃない!?!?




「おや、田中野さん・・・何かありましたか。」




さっきからなんなのぉ!?


ここの人たちの察しが良すぎるのか、俺が絶望的に表情を作るのか下手なのかどっちだ!?


・・・後者だな、ポーカーくっそ弱いし、俺。




若干落ち込みつつ、今回のスーパーの顛末について話すことにする。


話が長くなりそうなので、3人で床に座る。






「・・・というわけなんです。」




やつらの計画やその最期について語り終えると、柔道場に沈黙が満ちた。


神崎さんも宮田さんも無言だ。




・・・神崎さんの眼力が大変なことになってる。


抜き身の刀のような鋭さだ。




宮田さんはいつも通り・・・じゃねえ!


腕!また腕が大変なことに!


えっなにこれ・・・金属!?




「かなり杜撰な計画ですが・・・田中野さんの言う通り、万が一の危険性も考慮しなければいけませんね。」




ため息をつきながら神崎さんが言う。




「・・・ありがとうございます、田中野さん。今、知れてよかった・・・」




腹の底から絞り出すように宮田さんが言う。




「すぐに私も含めた警官隊を派遣して・・・」




「いやいやいや何言ってんですか宮田さん!ここを留守にされちゃ困りますよ!!」




シレっと最高指揮官がカチコミかまそうとしてんじゃないよ!?




「し、しかし・・・」




「いいですか?俺がこの情報を伝えたのは、この避難所をがっちりガードしてほしいからであって・・・攻め込んでほしいってことじゃないんですよ!?」




慌てて宮田さんを止める。


そりゃこの人が大暴れすれば、チンピラの10人や20人はあっさり片付くだろうけども。


この人たちにはここを守ってもらわないといけない。


守ることにかけては警察ってのは俺の何十倍、何百倍も優秀だろう。


攻めるは俺、守るは警察だ。




「数も大したことないし、ここは俺に任せてくださいよ。」




「しかし、いつもいつもあなたばかりに・・・」




「いいんですよ、性分ですから。やりたいからやるだけです。あ、じゃあ、もし俺が死んだら攻め込んでくださいね。」




「いや、そんな・・・」




「田中野さん・・・?」




ヒエッ!


神崎さんが怖い!!




ここまで知ってしまって、「じゃあ、後はよろしく~」ってのは寝覚めが悪い。


・・・たぶん俺は後悔したくないのだろう。


あそこでああしていれば・・・なんて考えながら生きていきたくない。


雄鹿原さんを助けたのも、心からの善意なんかじゃない。


要は『俺が心安らかに過ごせるかどうか』ってことだ。




自分の生きやすさの為に人を殺す。


ベクトルが違えば極悪人だな。


いや、命をえり分けてる時点で十分そうだな。




「ところで、田中野さん。」




神崎さんがずずいと近付いてくる。




「もちろん、私は一緒に行っても問題ありませんよね?」




「こちらからお願いしようと思っていたところですよ。・・・危険ですけど、一緒に来てくれますか?」




「っ!、は・・・はい!」




心苦しいが、猟銃相手だと手裏剣では分が悪い。


俺は銃は使えないし使う気もないので、神崎さんがどうしても必要なのだ。


他人を巻き込むのは大変嫌なのだが・・・




っていうか、話をした以上断っても絶対ついてくるもんこの人。


前回みたいになるのは容易に想像できる。




「おっちゃん・・・おっちゃんはついてこないでよ。ここで美玖ちゃんたちを守ってほしい。」




「・・・心配しねえでも、んな野暮なこたぁしねえよ。」




柔道場の入り口にいつの間にかいたおっちゃんにも釘を刺しておく。


・・・おっちゃんもニンジャかな?






その後、スーパーで回収したトラックの鍵を宮田さんに渡す。


この騒ぎが終わったら避難所で回収して使ってもらおう。


ウチの駐車場には入らないし。




神崎さんとも話し合って、出撃は明日の朝と決めた。


あまり時間を空けると、残った奴らが拠点を変えてしまう恐れがあるしな。




美千代おばちゃんに軽トラに積んでいた布とかお土産を渡し、家に帰る。


・・・おばちゃんにまで、何かあったか聞かれてしまった。


もう仮面でも付けようかなあ・・・






今日持ってきた各種パーツを取り付けたら、だいぶ強そうな軽トラになった。


こうなったら開き直って、タイヤもいいものを探すべきだな。


今度でかいカー用品店に行こう。




明日に備えて、早めに眠ることにした。

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