第32話 突撃そこらの避難所計画のこと

突撃そこらの避難所計画のこと








「現状確認?」




オウム返しした俺に、宮田さんが語ったことはこうだ。






曰く、この近隣にはここ以外にも大きな避難所が3つあった。




・北小学校(俺がアホを騙して送り込んだ場所)


・詩谷高校(由紀子ちゃんの母校)


・詩谷市民会館(市内で最大のイベントホール)




この3つは警察が主導して避難民を収容していたが、現在そのすべてと連絡が取れない。


これらを偵察して生存者の有無や施設の現状等を確認してきてほしい、というのが俺への依頼だ。




単独で行動でき、そこそこの戦闘能力を有している俺が適任だと思ったのだろう。


偵察するだけなら1人でもなんとでもなる。




俺としては借りが返せるので全然OKなのだが、警察としてはどう思っているのか。


民間人じゃなくて警察官が動かないのか。


ふと疑問に思ったが、宮田さんはそれについても答えてくれた。




「不審な生存者・・・?」




「ええ、前にも言った通りここの避難所は満員です。これ以上は心苦しいですが、受け入れるわけにはいかないのです。」




「はい、よくわかります。」




「最近、周辺にこちらを観察する生存者の姿が多く見られるのです。中には無理やり押し込んでこようとする者もいます。」




あー、要は俺が以前からよく遭遇するようないわゆるチンピラ的な奴らが増えてきたと。


そいつらがこの避難所に目を付けるようになってきていて不穏な感じになってきている、ってことか。


で、警備や哨戒のために警察官をフル動員しているので、偵察にまで手が回らないという。


無理をしてでも偵察を出そうかと思っていたが、俺が「何か手伝いたいお願いなんかお仕事ちょうだい!!!」とゴネたので白羽の矢が立ったってことだな。




「民間人のあなたにこんな危険な仕事を頼むのは、大変心苦しいのですが・・・もちろん断っていただいても問題はありません・・・」




宮田さんは、苦虫を50匹くらい噛み潰したような顔で言う。


うーん真面目でいい人。


気にしないでいいのになあ。


マジで断ったらなんとか人員をひねり出しそう。




「お気になさらず。元々俺が言い出したことですから。」




何度も言うがこれは俺から言い出したことなのだ。


手厚い看護もしてもらったし。




それに、警官が1人死んだら避難民の皆さんの安全が脅かされるが、なんかよくわからない無職が死んだところでここにダメージはない。


元より死ぬつもりなんかさらさらないけども。


俺は借りを返して気持ちよくサバイバル生活を満喫するんだい!!釣りにも行きたいし!!!


・・・背負ってるものが軽ければ軽いほどフットワークは軽くなりますし?




「そうですね、私も同行しますし。」




「えっ」




「えっ」




俺と宮田さんが同時にマヌケな声を出す。


えっ俺も初耳だけど宮田さんも初耳なのォ!?


いきなり何言い出すの神崎さん!?




「えっとお・・・神崎さん、自衛隊のお仕事は・・・?」




「すでに無線機は誰でも使える状態で配置されています。現状私には決まった仕事がない状態です。」




「そうじゃなくて・・・あの、花田さんがなんて言うか・・・」




「一等陸尉には、無線機の設置以後、私の判断において臨機応変に動くことへの許可をいただいておりますので。」




えええええええええええええええええええええ!?!?




えっなにそれ自衛隊ってそんな自由裁量でいいの!?


いやいやいやいいわけないだろ!


上官の指示もそうだし、神崎さんって実はすごい人とかじゃ・・・?


所属を何回聞いてもはぐらかされるし。






「じっ!自分も!自分も参加したく思います!!」




オイコラ森山ァ!!やめろォ!!!


これ以上問題をややこしくすんじゃねえ!!!


っていうか警官が参加したら本末転倒じゃねえかよ!!!




「邪魔です。あなた程度では100人いても足手まといになります。」




「ヒッ」




ヒィ!!またあの目だァ!!!


あっ!森山くんの魂が抜けた!たぶん!!


容赦ねえ!!




あああもう収拾がつかねえぞこれえ!?






結局あの後、宮田さんが直接無線で花田さんに確認したところ、まさかの事実であった。


嘘だろ・・・




『お久しぶりです田中野さん。大きな怪我をされたと聞きましたが、お体はもう大丈夫なのですか?』




「アッハイ、神崎陸士長様のおかげですこぶる健康であります!」




俺に代わってほしいとのことなので、久しぶりに花田さんと話す。




『お聞き及びのことでしょうが、今回神崎には全力であなたのサポートを行ってもらいます。』




「あ、あの・・・俺は別に単独でも何の問題もないと思われますが・・・」




あっ背後から神崎さんの視線を感じる!!


トテモコワイ!!!!


攻撃力があったら上半身が吹き飛んでそう!!!!




『我々としても市内の詳しい状況は是非知りたいところなのです。ご心配なく、決してお邪魔にはなりませんから。』




あのそれ・・・どっちかっていうと俺の方がお荷物になる気がするんですが・・・




「あのォ・・・ちなみに神崎さんってどんな部隊に・・・」




『ハハハ・・・それでは、よろしくお願いしますよ田中野さん。・・・花田、通信オワリ』ブツリ




ウッソでしょ切られた!!




・・・うん、これもう知る必要のないことってやつだな。


なら俺は考えるのをやめる。


やめるったらやめるぞ!!!




「よ、よろしくお願いします・・・神崎さん。」




「はい、粉骨砕身の覚悟で臨みます。」




小さくガッツポーズをする神崎さん。


うわあ美人は何しても絵になって得だなあすごおい。






結局、釈然としない気持ちを抱えながら俺は神崎さんとタッグを組むこととなった。


そりゃ神崎さんは自衛隊員だし、万に一つも足手まといにはならんだろうけどさあ!


1人の方が気楽なんだよお!!


美人と一緒だとすっごい気まずいんだよお!!




苦笑いしている宮田さんと打ち合わせをし、明日から偵察に取り掛かることとなった。






ちなみに森山くんは精魂尽きたようにソファーに座り込んだまま動くことはなかった。




オイそういうとこだぞ森山ァ!!!!


落ち込む暇があったら腕立てでもしろォ!!!!


一生振り向いてもらえんぞお前!!!!!!!!






明日の早朝、避難所で神崎さんをピックアップすることを約束し、俺は自宅に戻った。


久しぶりに家で眠れるなあ!


避難所のベッドも快適だったが、やはりおうちに勝るものはない!




庭の野菜を確認する。


うん、順調に育っているようだ。


ミニトマトにはそろそろ支柱を用意しとかないとなあ。


上手くいくようなら、特にジャガイモを量産しておこう。


玉ねぎなんかも保存ができるし、今のうちから冬に備えておかねば。





冷凍庫が使えればもっと長期保存できるんだけどなあ・・・


蓄電池とかどっかに売ってないもんかなあ。


発電機はあるんだし。


ソーラー発電についても勉強してみるかなあ。




あー・・・でも中央図書館には行きたくねえなあ・・・


図書館はまだいくつかあるし、そっちから回ってみよう。






ふと思いついたので、家から歩いてすぐの所にある公民館に行ってみた。




公民館・・・うっ頭が。


災害時は一応ここも避難所に指定されるので、保存食くらいはあるだろう。


ここら辺は何故かゾンビ空白地帯なのでありがたく頂いておくとするかな。


備蓄はあるに越したことはないのだよ。




裏口から侵入。


ここは昔から鍵が掛かりにくくて、強く引けば開くんだよなあ。


遊び場にしていた子供時代から何も変わってなくてありがたい。




思った通り、中は綺麗なままだ。


えーと、たしか災害用のグッズはたしか台所に地下倉庫への扉が・・・


あったあった。


普段はテーブルで隠してあるから、ちょっと見ただけではわからない。




ライトで照らしながら地下へ下りる。




おっ、見つけた。


乾パンにアルファ米に缶詰、段ボールベッドまである。


リュックに入る程度持ち帰って、あとはこのままにしておこう。


ここは涼しいから、家に何かあった時の避難所兼倉庫扱いにするかな。




帰り際に事務所に寄ってスペアキーをゲット。


たしか、もう一個の鍵は自治会長のおじいちゃんが持ってるんだよな。


生きてるかなあ、爺さん婆さんたち。


敬老会の旅行先がどこか知らんが、どこでもここと同じ状況だろうなあ。






家に帰って夕食とする。


今日の献立はアルファ米のピラフと即席みそ汁、それに賞味期限ぎりぎりのハム。


アルファ米はお湯で作ったのでホカホカだ。


他の種類はそうでもないのに、何故かピラフだけ冷たいと異様にマズいんだよなあ。




あーうまい。




こんな状況でも飯が食えるのは幸せだなあ。


飯と家と煙草。


天国は意外と身近にある!






さて、腹も膨れたので映画を一本見たら明日に備えて早く寝よう。


何にしようかな。


新作に挑戦してクッソつまらなかったら明日のテンションにかかわるし、見たことがあるやつにしよっと。




と、いうわけで世界一後ろ結びが似合う長身無敵アクションスターのやつにしよう。


息子を殺された父親がギャングとかマフィアとかを片っ端からぶち殺す映画である。




うーん!この役者のアクションはいくつになってもカッコいいなあ!


さすがに近年は動きが鈍くなってきたが、それでも映画中はほとんど傷一つつかない無敵っぷりだ!


吹替の声優も渋くて大好きなんだよなあ。


俺はよっぽどひどくない限りアクション映画は吹替で見る派なんだ。


某中華が産んだ大人気アクション俳優なんか、原語版で見たら逆に違和感が凄いもんな。




面白かった!


強すぎて微塵も動きの参考にはならないが、やはりアクション映画はカッコよくて強い主人公が大活躍してナンボだよなあ。




大いに満足したので明日に備えて早く寝よう。


う~んむにゃむにゃ。


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