第9話 生存者たちのこと

生存者たちのこと








周囲を確認しながら、台車を押して軽トラへ急ぐ。


駐車場の一番奥、道に出やすいところに停めたからわかりやすい。


疲れたからとっとと帰宅して休みたいなあ。






・・・なんか、車増えてないか?




俺の軽トラの斜め前に、白いバンが停まっている。


誘拐犯が乗ってそうなアレだ(偏見)




ここへ来たときはいなかった車だ。


四方に一台も車がないところをわざわざ選んで停めたから間違いない。


ゾンビが運転するわけないから、あれは生存者のものだ。


ここからでは車内にいるかどうかわからない。




俺はいつでも使えるように木刀を抜き、台車に立てかけた。


そのままぐるりと駐車場を大回りして、見晴らしのいい方向から軽トラに近付いていく。


バンの窓にはスモークが貼られ、内部を見ることが難しくなっているようだ。




視界の隅にバンをおさめながら、軽トラの横に台車を停め、荷台に物資を移していく。


大量大量、やはりホームセンターは素晴らしいな。






バンのドアが開いた。




俺は素早く体をバンの正面に向ける。




男が出てくる。数は3人。




1人は40代くらいだろうか、坊主頭に浅黒い肌をしたがっしりした男だ。


残る2人は20代になるかならないかといったところか。2人とも乱雑に伸ばした髪は金髪で、いくつもピアスを開けている。


工事現場にいそうな組み合わせた。




「大漁だなぁ、兄さん」




坊主頭がにやりと笑いながら話しかけてくる。


2人の金髪はこちらを睨みつけてくるが、何も言わない。


後輩教育がなってないぞ坊主頭。




「いやぁ・・・中が手つかずだったんで、なんでもありすぎて困っちゃいましたよぉ」


こちらも愛想笑いを浮かべながら返す。




『円滑な人間関係の構築は真の笑顔から』




そう誰かに言われたことがあるが、別にその場しのぎならニセ笑顔で構わない。




「そいつぁいいや!・・・中にあのバケモノ連中はいたかい?」


探るように聞いてくる。




「あっちこっちで死んでますけど、動く奴はいなかったですよ?」


正直に答えてやる。


どうせ10人20人で消費できるような量ではない。


余計な軋轢は避けて通るが吉だ。




「いいねえいいねえ!ありがとうよ兄さん!・・・よしタケ、リキ!聞いたか?行くぞ!」




「ウス!」




「・・・ッス」




坊主頭は振り返って金髪2人に声をかけ、バンに戻っていく。


荷物でも取りに行ったのだろう。






意外と話の分かる坊主だったな。


まあ目の前のホームセンターがよりどりみどり状態なのだ、わざわざ少ない物資を奪い合うほど馬鹿ではなかったということか。




「おいオッサン」




返事に覇気のなかった方の金髪君が話しかけてきた。


タケとリキどっちだろう。




「・・・何かな?」


張り付いたウソ笑顔のまま答える。




「その発電機くれよ」


今まさに荷台に積んだものに顎をしゃくってほざいてくる。






馬鹿がいたわここに!!目の前に!!!






止めないところを見ると、威勢のいい方の金髪君も同じ考えだろう。




「いや・・・まだ中にいっぱいあるよ?これなんか小さいやつだしさぁ・・・」




「知るかよ、もっかい取って来りゃいいじゃん。そいつが欲しいんだよ」




「頼むよぉオジサン、怪我したくないっしょ?」


2人してニヤニヤしながら言い放ってくる。






おやあ・・・とても傍若無人でいらっしゃるなこの人間によく似た猿たちは。






こんなおそらく一回りも下の、親からろくに躾もされてないだろう生き物に舐められるのは腹が立つ。


営業モードはもう終了するか。


平時ならともかく、この状況でこんな奴らに遠慮する必要はない。


そもそも俺が必死で集めた物資だぞ。


目の前のクズ共にくれてやるくらいなら、ここでガソリンかけて燃やした方がなんぼかマシだ。






ふ・ざ・け・る・な・よ!






今まで殴り殺したゾンビ由来の何かがしみ込んで赤黒くなった木刀を、ガキ共に見せつけるようにゆっくりと上段まで持っていく。


そのまま肩に乗せて構えた。




俺の木刀が何故そんな色になったか、頭ゾンビ級の馬鹿でもそれくらいはわかるらしく目に見えて2人はうろたえた。


ビジュアル的にもこの木刀はデカいし迫力もあるしな。






「笑わせんじゃないよクソガキ共・・・それ以上近寄ったら頭かち割ってぶち転がすぞ虫けらがぁ!」






頭を潰す必要があるゾンビと違って、普通の人間ならどこをぶん殴ってもダメージは通る。


若かろうが何だろうが、こんなの2匹だったらゾンビ9体よりマシだ。


明確に悪意を向けてくる分、ゾンビより殴ることに抵抗はない。


何とも楽な相手だ、笑えてくるな。




そのまま睨みつけ、いつでも殴りかかれるように無駄な力を抜く。




頭をやるといったな、あれは嘘だ。




手首か肩を砕いてやる。


せいぜいのたうち回って反省するがいいさ。




「な、なんだよ・・・冗談だよ・・・」


「空気、よ、読めよ・・・」




奴らは明らかに腰が引けているが、油断はしない。


無言で睨みつけてやる。


しかし言葉遣いもクソだなこいつら。


イイ感じに頭をしばいたら治るかもしれん。




「まともな言葉も喋れねえのかこの・・・」






「おい!!タケ!リキ!!何やってんだてめえら!!」




バンからデカいリュックを持って出てきた坊主頭が慌ててこちらに走り寄ってくる。


渾身の脅し文句がカットされてちょっとかなしい。




「せん、先輩・・・!このオッサンが急に・・・」




「このクソガキ2匹がさ、発電機よこせって言ってきたもんでねえ。ちょっと笑えないボケなもんでキツいツッコミをくれてやろうかと」




ほざきかけた金髪の言葉を遮って言う。


構えはそのままだ。


坊主頭が味方とは限らないしな。




「お前らはぁっ!!」




それを聞いた瞬間、坊主頭が顔を真っ赤にして金髪2匹の頭にげんこつを入れる。


体重の乗ったいい殴り方だ。ありゃあ痛いぞ。


2匹はうずくまって悶絶している。




「兄さん申し訳ねえ!うちの若いのが迷惑かけたみたいだな・・・」




「いやいや、実害はないんで気にしないでください」


頭を下げてきた坊主頭に、にこやかに返す。


だが構えはそのままだ。


こいつらが背を向けるまで油断する気はない。




「勘弁してくれて助かったよ兄さん・・・オラてめえら!いつまで痛がってんだ!行くぞ!」




それを察したのか、坊主頭は2匹のケツに蹴りを入れて無理やり立たせる。


これもしなりが効いたいい蹴りだ。


何か格闘技やってるなこの人。打撃系の。


空手かな?




「せ、先輩痛いっすよ・・・!」「立ちます、立ちますから・・・!」




「アァ!?寝ぼけてんじゃねえぞカス共!だったらとっとと歩けや!!」




泣き言をこぼしつつ2匹は歩き出した。


坊主頭は追い立てるように怒鳴りながらついていく。


息を吐き、木刀を下ろす。






「すまなかった兄さん!俺ぁ木島組の石川ってもんだ!今度近くまで来たら寄ってくれ!!」




「ご丁寧にどうもどうも!私はこの辺に住んでる木下ってもんです!お気になさらず!」




だいぶ離れたところで、坊主頭・・・石川さんが言ってきた。


気が荒いけど悪い人じゃなさそうなので俺も名乗り返す。






偽名だけどな!!






石川さんはともかく、あの2匹に個人情報を開示する気はない。




3人がホームセンターに入るのを見届けると、残った荷物を荷台に詰め込んだ。


さあ帰ろう。






・・・ゾンビより生きた人間の相手の方が疲れるなあ・・・






俺は煙草に火を点けると、おもむろにエンジンをかけた。

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