第4話 キャスティングがしょぼい
15歳になると貴族の子女ならどうしても避けられないことの為に長期間王都で暮らす事になってしまった。
そう、15歳から18歳までモンテディオール学園という貴族の子女なら必ず卒業しなければならない、一種のステータスとなるところに入学しなければならなかったのだ。
それも私は第5王子の婚約者。本人に嫌われていても婚約者なのだ。だから、通わなければならない。
入学式の初日ぐらいは一緒に登校しなさいと王妃様の命令でラートウィンクルム殿下と共に学園の門を潜ったその時、目の前で一人の女生徒が殿下にぶつかって転んだ。
私はその時素直に思った。
『わー。テンプレ』
その瞬間、私は自分が抱いた感想に驚き、固まってしまった。殿下が転んだ女生徒を抱え去っていく姿を見ながら、内心冷や汗が溢れ出てきた。
ちょっと待って、私は勝手にリアル狩りにこうぜの世界だと思っていたけど、実は乙女ゲームの世界だったのでは?
しかし、キャスティングがしょぼい。第5王子って、元子爵令嬢って。
せめて第2王子ぐらいの王位を狙えるぜポジションで、婚約者はドリル巻き巻きの公爵令嬢がいいのでは?
ラートウィンクルム殿下はキラキラ王子だけど、何も突出したモノは持っていない。王位は転がりこんで来るか、クーデタでも起こさない限り無理だ。頭は程々に良いようだが、頭の良さなら第2王子の方が有名だ。
剣術に関してはサッパリだ。武勲なら第3王子の方がお持ちである。そのうち騎士団長を拝命されるのではとい噂もあるぐらいだ。
魔力に関しても······はっ!もしかして、そんな王子を励ましてラブラブになるゲームなのかも?
しかし、もしコレが乙女ゲームの世界だったとしたら、私のポジションは悪役令嬢だ。
ないわー。あのキラキラ王子が欲しいのなら熨斗をつけてお渡ししたいぐらい。
そんな事から始まった学園生活は私にとって何も変わらなかった。魔物が溢れているという情報がもたらされれば、キラキラ騎士がお迎えに来て、現場までドナドナされ、移動砲台の如く魔術を連発し、けが人が出れば治療に当たる。
何も無ければ学園で授業を受け、学生生活を過ごす。王子妃教育が学園の授業に置き換わっただけだった。
時折、目の端にラートウィンクルム殿下とあの時転んだ女生徒が共に居ることが映りこむだけ。
しかし、季節が巡るに従い、女生徒の周りに高位貴族の子息の数が増えて行っていた。一年経つ頃には5人にまで増えていた。
もしかして······もしかしなくても、逆ハーレムルートを構築している?私は、それをみて焦った。断罪されるとすれば悪役令嬢ポジションの私だと。
学園で何が起こっているのか彼らに張り付いていればわかるのかもしれないが、どちらかと言えば学園に居ないときの方が多い。
だから、彼らのことは放置して断罪されても良いように対処することに決めた。無難に一番あり得るのが国外追放だろう。私の国への貢献は国民誰しもが知り得ることだ。
ぶっちゃけ、王都を歩くだけでも一苦労なほど人気だ。特に子供にはよくまとわり付かれている。
だから、死刑は無いと······思いたい。
後は修道院か。幽閉か。そんなところに押し込めているぐらいなら、辺境に帰され魔物討伐に慢心しろと国王から言われそうだ。
それぐらいこの国にとって魔物は驚異でもある。
その事を踏まえると、ラートウィンクルム殿下が取れる選択肢としては国外追放が一番無難に思えてくる。
だから、私は快適にその後の人生を過ごす為に色々物を購入し始めた。
アトリエと言っていいほど狭い家(一般貴族としては)に自分好みの家具を詰め込み、亜空間収納に入れておけば、いつでも取り出せる。
少しずつ揃えていき、満足できるほどの物が用意できたのはあれから2年後の卒業パーティーの前日だった。その頃になるとラートウィンクルム殿下と顔を合わせることも無かった。
「貴様との婚約は破棄だ!」
テンプレ過ぎるセリフにシチュエーション。卒業パーティーにラートウィンクルム殿下から私の名が呼ばれ会場の中央に足を運ぶと、キラキラ王子の後ろに隠れるようにあの女生徒が緑色のドレスを纏い立っていた。殿下の瞳の色のドレスだ。
殿下は完璧に攻略されてしまったらしい。そして、その周りには7人の男子生徒が······増えている。
彼女は着々と高位貴族の子息の心を射止めたらしいが、この後はどうするつもりなのだろう。
この国は多夫一妻制を認めてはいない。
ラートウィンクルム殿下が何か罪状というものを私に言っているが、そもそも私は殿下と彼女がどうなろうと構わないし、殿下が彼女に惹かれた事への正当性を遠回しに言っているようだが、先に裏切ったのは殿下の方だと言うことが抜けている。
「そんな貴様は貴族籍を剥奪し、国外追放に処する!」
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