四月二十八日1000 もがみの就役
ツツジが初夏を匂わせ始める四月の終わり。雨の中で、長崎の造船所でその若い【艦霊】は不安げに自身の本体たる真鉄の城を見上げていた。プツリとマイクの音源が入る音が静かな構内に響き、アナウンスが式典の開始を告げる。【艦霊】は式典の邪魔にならないようにそそくさと端によけ、見学の姿勢を取った。
【おい、もがみ】
「なに?」
引き渡し書が読み上げられている時、若い【艦霊】もとい【もがみ】の横の空気が揺れ亡霊がうっすらと姿を現す。急な出来事に【もがみ】は慌てて周りを確認するも、亡霊の姿は人間には見えていないようだ。その証拠に誰も騒ぐことなく式典は進行する。
【自分の就役は一生に一回だぞ】
「そうだね」
【ちゃんと見ろよ】
亡霊は海鳴りのような声でそう言うとスウっと空気に溶けて見えなくなった。それから間を置かず、軍艦マーチが音楽隊によって奏でられる。【もがみ】の目の前ではそれに合わせて紅白の旗を掲げた乗員を先頭にして、黒い制服の行進が真鉄の城を目指し進んでいく。君が代と共に旗が掲げられれば、大海はもうすぐそこにある。
「【もがみ】」
式典の終わる直前に、【座敷童ククリ】が【もがみ】の横に立ち、言祝ぐ。
「多用途護衛艦、その魁は苦労も問題も多いだろう。 しかし、それ以上に愛される艦になる。 【もがみ】の名がお前にとっても誇らしいものになるように祈っている」
我は海の子。浮きつ城。
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