十二月二十六日 呉の朝
朝、昨日までのクリスマスムードを街はすっかり忘れ、年末年始雰囲気が漂い始めている。もう少し時間が進めば色んな店が開き、大掃除グッズの案内や正月の童謡が流れ出すのであろう。暦と世間の変わり身の早さを感じながら【ニシノ】はFバースの手前から呉の内海を見つめている。そして、そこに居れば嫌でも目に入るのが二日前に役目を終えた灰色の城……元せとゆきだ。元せとゆきは静かに波に揺られ桟橋はどこか寂しそうにキイキイと鳴いた。
「三十五年、そんなものだな」
一つの艦の型が無くなるというのは、一つの時代が終わる感覚と似ている。初めてではない独特の寂しさを感じながら【ニシノ】が元せとゆきのマスト見上げる。他のゆき型の兄弟たちよりも補強が二本多いマスト、少しへこんだ側舷、その一つひとつに思い出がある。マストが折れたと文句を言う姿を思い出した時だった。白くて小さな物がヒラリと舞って【ニシノ】の頬にひっついて解けた。
「なんじゃ、もう帰って来たんか」
瀬戸内の海に降る雪は空を人に見上げてもらうため降るのだという。
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