[7章6話-2]:わたしらしい結末かも…




『わたしが見つけられなくて、健ちゃんを悲しませるなんて絶対にしたくない!』


 誰にも言えない心の叫びを内に秘めながら、それでも特定できないことに焦りが膨らんでいく。


 タイムリミットを直前に控えた先月、偶然にも複数の決定的な情報をつかむことができた。


 ついに、どこに行けばいいか分からない状態からは開放されたが、やはり問題はそれだけではなかった。


 長期間を経ての再会。互いに以前の二人の気持ちでいられたのか。自分の中では変わっていなくとも、彼の心の中までは分からない。


 少なくとも会うことができれば、結果に関わらず気持ちのけりをつけることができると思っていた。


「やっぱ、無理だったのかなぁ……」


 夕日が沈み、稜線を赤く染めた山並みを見ながら茜音はつぶやいた。


 最後に情報をもらった時に少し分かったのは、彼が働きながら学校に行っているという事実。


 すでに仕事を持っているのなら、予定を空けることができなかったのかもしれない。ますます自分はどうしたらいいのか余計に分からなくなってくる。


 今回は着替えすら持ってきていないし、宿も取っていなかった。これから暗く寒くなる山の中で一晩を過ごさなければならないと思うと、佳織たち本体と同行でなかったことに悔やんだ瞬間もある。


「でも……、これがわたしたちの本当の姿だったのかもしれないなぁ……」


 不思議に怖さは無かった。あの当時も周囲は暗かった。駅まで歩いて助けてもらったからよかったものの、本来はこうやって暗がりの中に取り残されるはずだったのだから。





「……ほぇ?」


 いつの間に再びうとうとしていたらしい。


 どこか遠くで自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「茜音ぇー! 意地張ってないでもう出てきなさい!」


 小さく聞こえる叫び声は聞き覚えがあった。胸の中がぎゅっと締め付けられる思いだった。


「仕方ないかなぁ……。時間切れかぁ……」


 こんな所まで探しにきてくれた……。そんな二人には顔を出して詫びなければならないと思い直す。


 すっかり暗がりに慣れてしまうと、月明かりだけでも足元ぐらいは見ることができる。


「あっ……」


 乗っていた岩の上から河原の砂利の上に立ち上がろうとしたとき、茜音の足に激痛が走った。何とか持ちこたえようとしたが、そのままもつれるように川の中へ倒れこむ。


「いたぁ……。そっか、そうだよね……」


 過度の疲労がたまると、手足の筋肉が痙攣硬直してしまい、しばらく動かすことができなくなってしまう茜音の昔からの癖だ。


 診察してもらっても治療が必要な病気ではないという。最近は出ることはなく、時折症状が出たとしても旅行直後に足を攣る程度のものだった。


 今回のはこれまでに無いくらい重傷のようだ。足だけならまだいい、今回は身体全体が痛くなり、気が付くと手の自由も利かない。


「しょうがないかぁ……」


 前兆はあった。ここに来るまでに何度か軽く痛みを感じていた。それでも途中で止まるわけにも行かず、休憩を挟みながらも無理を押して歩き通した。


 ここのところの体調の不十分さや、これまで張り詰めていたことにより溜め込んできたものが一気に噴出したのだろう。


 手足が使えないため、川に落ち込んでしまっても起き上がることもできない。幸い頭は出ているので息はできたのがせめてもの救いだ。しかし、そんな状況で長くいられるものではない。


「さむぅ……」


 周囲は暗闇で気温も下がってきている。山間の川の水は雪解け水やそれが地下水となって湧き出したものが多いから、水温は平地の川に比べればぐっと低い。そんなところに全身が浸かってしまっては体温は一気に奪われてしまう。


「なんか、わたしらしいかもぉ……」


 一人苦笑する。こんな状況に追い込まれながらも、不思議と茜音は落ち着いていた。今の水音を聞いても、この暗闇では菜都実たちでもすぐに降りてくるのは困難だろう。


 明日の朝まで自分の体が無事でいられるとは思えなかった。大親友に惨めな姿をさらすことになるのは申し訳ないが、これも自分で選んだ道だったから……。


「でも……、振られても……、いいから……、もう一度……、会いたかった……な……。健……ちゃん」


 星を見上げている内に眠くなってきたのは、夜のせいなのか自分が冷たくなっていくからなのか、もうよく分からない。


 薄れる意識の中、最後に茜音が覚えていたのは、いくつかの光とともにやってくる、自分の名前を叫ぶ懐かしい声だった。

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