[4章7話-1]:寒さの中で思い出したこと




 駅ビルの中で夕食も済ませ、雪の中をタクシーで戻った五人は、互いの連絡先を交換しあったあとそれぞれの部屋に戻った。


「明日帰りだねぇ。菜都実の気分転換になったかどうか……」


「そこは心配無用ってとこ。それより、結局茜音に無駄足させちゃったなぁ」


 昨日とは違い、窓の外には白い世界が広がっている。


「ううん。確かに場所は探せなかったけど……。菜都実と真弥ちゃんたちに一緒に来てもらって、修学旅行のやり直しできたよ。ありがとぉ」


「本当に、ポジティブでいい子だね、茜音は……」


「それ誉めてる?」


 茜音は、少しふくれた顔をしたが、真顔に戻り菜都実の向かい側に座った。


「少しは元気になれたみたいだねぇ。顔も良くなったし」


「茜音……」


「朝までよりも、すっきりした顔してるもん。美弥さんと話して気分が晴れたのかなぁ?」


 今日のメインはほぼ別行動となってしまったし、茜音の本来の目的は果たされなかった。それにも関わらず、茜音は自分の様子をしっかり見ていた。


「茜音、ありがとなぁ」


「ん? 菜都実も佳織もいつも助けてくれる。少しはお礼しなくちゃ。わたし、二人に出会えていなかったら、今頃なんにもできていなかったと思う。一人でずっとウジウジ考えて、考えるだけで行動なんかできなくて……」


「茜音はそういう子じゃないでしょうが?」


 しかし茜音は首を横に振る。


「ううん。昔のわたしはそうじゃなかった。あの話もみんなに言えば笑われて、自信も持てなくて。なにもできなかった。だから誰にも話さないようになった。菜都実と佳織に会えて、初めてこの話も信じてくれて、応援してくれて……。嬉しかったよ。それにいつも迷惑かけてたからねぇ。だから、今回はいても立ってもいられなくて……」


 仕方ない話なのかもしれない。茜音が経験してきた世界は同年代の子の普通の生活からはかけ離れている。そのことも茜音自身は理解している。


「そっか……。うちなんか今まで平和すぎて、今回のことでようやく本当に茜音の気持ちが少し分かった気がするんだよ。由香利も茜音のこと好きだったから、あたしが変わったのは喜んでくれるんじゃないかな」


 昨年の秋、それまでほとんど誰にも紹介することがなかった双子の妹を菜都実は茜音と佳織に紹介した。


 そのことがきっかけとなり、それまで殻に閉じこもりがちだった由香利も、この四人の時は心配がなくなった。


 茜音のアイディアで、この旅に同行してもらって以来、何度か一緒に買い物に出るなど、普通の生活も経験できた。菜都実から聞いた話では先が長くないことを知っていながら普段通り付き合ってくれた姉の友人二人には最後まで感謝していたという。


「今回着てきたコートさぁ、あれ自分で買ったんじゃないんだ……」


「あのグレーのやつ? 確かに今回初めて見た」


 ドア横のクローゼットにかけてあるコートを指さした。


「そう。11月の終わりに茜音が出ていた時だった。あの日は由香利が一時退院させてもらったんだよねぇ。そしたら一緒に買い物に行こうって言われてさぁ」


 立ち上がって窓際で話す菜都実は、じっと窓の外を見ながら先日の事を思い出しているようだった。

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