[4章3話-2]:部屋は主の性格を表す?
茜音が紅茶を煎れてくると、それまで部屋の中を見回していた菜都実が首を傾げていた。
「どうしたの?」
「いや、茜音の部屋も久しぶりなんだけど、なんかずいぶん片付けた? なんだか地味になったって言うか……。茜音らしいというかなんていうか」
「少し前に模様がえしたの。色を統一したから目立つのかもねぇ」
「やっぱそうだよな? 昔はピンクとかも多かったよね?」
茜音の部屋は菜都実の殺風景に近いそれと比べると、まだ部屋のインテリアには手をかけている。
それでもよくテレビや雑誌などで紹介される流行品などはほとんど見られない。普段から最低限のメイクで通しているためか、鏡はあっても薬用リップやローションなどで、コスメというよりも肌荒れを防ぐための用意と見ていい。
壁や家具の白やベージュ、ブラウン系や木目調の落ち着いた色使いとシンプルな家具など、今時の女子高生としては落ち着いていて、大人びているような雰囲気に感じられる。
一方でカーテンや家具にかけてあるカバーなどの品は色は同系ながらもリボンなどのアクセントを多用している。この部屋を見れば茜音の私服や持ち物の好みなどにも納得がいくといった具合だ。
菜都実が指摘したのは、半年くらい前に来たときと部屋の雰囲気ががらりと変わっていることだ。当時は今と違い、パステル系の色調、レースなども多用してあって、言ってみれば「メルヘン調」となっていたものが見あたらず、ガラッと方向転換されていることだ。
「飽きた訳じゃないけれど、秋に千夏ちゃんが来てね。その時に欲しいってことになって、中古でよければって譲ったの。どうせだから全部取り替えちゃえってことになってねぇ」
「それじゃ、高知に行くと第2の茜音の部屋が出来ていると?」
「そうかもね。今のを揃えているとき、ずいぶん変わったなぁと自分でも思ったけどね」
「これはこれで茜音らしくていいじゃん? 佳織んちは効率性重視デザインだもんねぇ」
どちらかといえば自然素材を使ってカントリー風の茜音の部屋と、金属系の調度品も機能美アクセントとして用いて都会風に仕上げている佳織の部屋を対比すると、普段の二人の行動もなんとなく理解できる菜都実だ。
「それでも着る物の趣味はあんまり変わっていないんだけどね……」
そんな部屋の隅から、茜音はアルバムを取り出してくる。
「たぶん、菜都実と行くとしたら……、西日本のほうになるかな」
茜音はそれをめくりながら言う。
これまで旅をしてきた記録と地図への書き込みがされている。
改めて見てみると都市部から離れた部分を中心に回っている事が分かる。しかしどうしても茜音一人では回れる場所にも限界がある。
だからといって代理に頼むというわけにもいかない。本格的な春にはもう少し間があるこの時期では、東北や北陸の山奥に行くことはできないというのが実情で、自然と西の方に照準が向いてくる。
「そうだねぇ、京都なんかどうかなぁ?」
「京都?」
意外な場所の候補に菜都実は聞き返した。
「うん、まだ行ってないんだよぉ。京都っていうより、その近くの嵐山とかの方がメインなんだけど」
「そうなんだ。まぁ、茜音がいいって言うならどこでもいいんだけどさ」
マップを見てみると、京阪神地帯は調査 空白地帯になっている。関東近辺と同じように、都市部に近い場所の可能性は薄いと判断してのことだろう。
しかし、茜音が自分でその場所を指定したということなので、それを拒否する理由もない。
「んじゃ決定ね。菜都実の家は大丈夫なの?」
「茜音と旅行に行くって言われて断られたことはないから大丈夫。それに、今回は結構特別だしね……」
「そうか。でも、よかったよぉ。菜都実に元気が戻ってきたみたい」
茜音だけが心配したのではなく、このところ、以前のような威勢の良さが菜都実から消えてしまっていた。
忌引きとして休んでいたのは周囲も知っているから、一般的な感情は分かっている。
ましてや、菜都実姉妹の事実を知ってしまった佳織と茜音は訳が違う。
「しゃーないわよ。いつまでもくよくよしているわけには行かないしさ」
まだ時々痛々しい表情を見せることはある。それでも普段の調子を取り戻そうとしているところには、自身の経験があるだけに安心すると同時に、「無理をしないで」と茜音はいつも思っていた。
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