[4章2話-2]:最後までお姉さんらしく




 翌朝、茜音は言われた写真のデータを持って菜都実家に向かった。昨日の話ではそのまま通夜になるというので、制服を入れたハンガーケースを持ち込んだ。


「はい、これでいいかなぁ? これが一番可愛く映ってると思うんだぁ……」


 今朝、帰ってから茜音は1枚1枚チェックをしてくれたらしく、プリントした写真の裏には既にメモが書き込んであった。


「悪いね……。うちで撮ったの少なかったし、確か一番いい顔で写ってるのこれだったから……」


 菜都実は二人を奥の部屋に案内した。


「今朝帰ってきたんだ。お通夜とかは斎場にするんだって。本当は帰ってきたかった家でやってあげたかったんだけど、さすがに狭すぎて……」


「そう……」


 最初の予定ではお店の中を片付けてそこに作るということで、テーブルや椅子なども隅に片付けていたけれど、やはり状況を考えるとそれでは足りないと考えられたようだ。


「どう? 寝てるみたいよね。昨日茜音たちが帰った後から顔色が戻ってね……。そのままだった……。苦しんだりしなかった。よかったよ」


 すでに棺の中に寝かされている由香利のそばに二人を案内する。


「よかったねぇ……。もう苦しまなくていいんだよね……」


 昨日の病室でもそうだったけれど、佳織はまだ慣れていないのだろう。しっかり見ることが出来ないという表情をしている。茜音は佳織と代わり、そっと彼女に告げた。


「昨日の夜にパパとママに……、由香利ちゃんのことお願いしておいたから……」


 ちらちらと急を聞きつけた親戚などが集まり始め、三人は一度菜都実の部屋に引き上げることにし、そこで服を着替えることになった。


「茜音……。あたしさ……、こういうときどうしたらいいのか良く分かんないのよ……。みんなが来る前にこのあとのことちょっと教えてくれない? 最後くらい恥かかせたくないからさ」


「うん、分かったよぉ……」


 この三人の中で実際に葬式など経験したもの、しかも身内で行った者など茜音しかいない。


 茜音は簡単に、このあとの出棺と今夜のお通夜から一連の流れを話す。


「わたしと佳織は明日の告別式のお別れまでしか付き添えないから、そっから先は家族だけだからね。でも、一番そこがわたしには辛い場面なんだけど……、由香利ちゃんのために最後までお姉さんらしくね」


「そうか……」


 神妙な顔をして菜都実は話を聞いている。


 そうこうしているうちに、由香利を旅立たせる準備が始まってしまい、菜都実はそばへ、二人はそれを見守ることに徹した。




 彼女の葬儀は本当に静かに行われた。正規の学校にもほとんど行けなかったため、昨夜言われたとおり友達らしい影もあまり見られず、ほとんどが病院の中で知り合った人だと菜都実は教えてくれた。


「でもさ……、由香利言ってたよ。なんでもっと早く二人のこと教えてくれなかったんだってさ……。あたしの大失敗だったなぁ」


 結果的に最初で最後になってしまった長野への旅は、身体に無理押しをしての参加だったにもかかわらず、由香利自身だけでなく菜都実にも忘れられない思い出が作れたと、当時の一同に感謝を告げていたくらいだ。

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