[3章3話-1]:佳織と萌が気づいたヒント




 放課後のホームルームが終わると、佳織は菜都実と茜音を引っ張ってそのまま駅に向かっていた。


「こんなに早く行ったって萌ちゃんいないんじゃない?」


「大丈夫。中間テスト明けで早いんだって」


 電車にゆられて目的の駅に到着する。


 改札口は東西の2カ所。佳織はためらわずに東口に向かう。改札の外では見慣れた顔の少女が三人を待っていた。


「こんにちはぁ。萌は先に帰ってなんか準備しているそうです」


「だから美保ちゃん制服だったのね? 学校終わってずっと待っていてくれたの?」


 彼女は大竹美保と言い、地元中学の2年生だ。本当なら彼女の妹の方に用事があるところを、姉を佳織たちの出迎えによこしたらしい。


「部活寄ってきたんでずっと待っていたわけじゃないですよ」


 夕方に入りかけた商店街を抜け、以前にもお邪魔した家に着いた。


「ただいまー。萌、みなさん来てくれたよ」


 最初からリビングまで通すことを言われていたらしく、美保はキッチンに向かって声をかけると三人をリビングに通した。


神無かんな、片づけておきなさいって言ったでしょうがぁ!」


 美保は学校の用意を置きっぱなしにしていたらしい小学4年の妹を呼びつける。


「いいんですよぉ。気にしないで……」


「神無、片づけちゃいなね。お待ちしてました」


 飲み物とお菓子を持って現れた萌は美保の一卵性の双子の妹の方で、見た目は全く一緒だ。


 茜音の場所探しの過程で知り合い、一緒に現地まで案内してくれただけでなく、茜音などは服を仕立ててもらったり一緒に料理を勉強したりと、深い交友が続いている。


「ごめんね、突然押し掛けちゃって……」


「いいですよ。とにかく資料探しだけはしておきました。それに時間取っちゃって……。お姉ちゃんの部屋全部ひっくり返したから……」


 萌が笑う。実は彼女は今やすっかりネットの写真家たちの間では次のホープとして有名人だ。


 風景写真を撮っていた姉の亡き後を継ぎ、今は姉が立ち上げたサイトに自らの作品を掲載している。夏休みに一緒に旅行した後、茜音たちに勧められ雑誌投稿した作品がいきなり新人賞を取ってしまうなど華々しいデビューを飾っている。


「とにかく写真と場所のことなら萌ちゃんだし。ちょっと見てくれる?」


 佳織はそう言って萌に例の写真を見せる。


 佳織が彼女を指名したのにはもちろん理由があった。


 萌と彼女の姉の作品には駅などの鉄道に関係した写真も非常に多く、二人の作品をあわせればその場所はほぼ本州を網羅している。


 自動車の免許を持っていない二人の女子がこれだけの場所を知っているというのは、その場所まで鉄道で旅行しているということを意味する。佳織はそこに賭けた。


「これ……、ですかぁ……」


 渡された写真を持って萌は考えていた。


「まぁ、直接は茜音のとは関係しないんだけどねぇ……」


 萌は何かに気がついたらしく、ルーペを持ってきた。


「どうかしたのぉ?」


「これ……、駅ですよねぇ……」


 写真では砂粒のように小さく見える建物を見て、萌がつぶやく。そしてやはり佳織と同じように地図帳を持ってきた。


「山にこれだけ囲まれて、湖があって……、駅があるんですね……」


「あうぅ、あんまりよく分からないぃ……」


 茜音がぼやくのも無理はない。例の写真は恐らくスマホの遠景写真をプリントアウトしたもので、何かにピントを合わせて撮った物ではないからだ。


「私も気になる場所があるのよ。ちょっとネット使えるかな?」


「いいですよ。部屋が散らかってますけど……」


 佳織は萌に続いて2階に消えていった。

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