[2章5話-2]:似ているけれど…




「はう~、こんな鉄橋絶対にネットだけじゃ分からないよぉ……」


 萌に案内されて、それこそ地図にもない小さな鉄橋を数々案内されながら歓声をあげる茜音。


 もちろん、それだけでなく、ひとつひとつのポイントで座り込んでは上を見上げたり、当時の記憶との照らし合わせを忘れてはいない。


「これは私たちも見逃していたわね」


 佳織も苦笑していた。飯田線沿線の写真として、多くのサイトで鉄橋も取り上げていたりもする。


 しかしその多くはもっと川幅の広い部分や、平地の部分が多く、この山岳地帯の支流にかかる橋まではマークされていなかった。


 もっとも、萌のような土地勘がある者と一緒でなければそこにたどり着くのも大変なのだけど……。


「この周辺がお話を聞いている中で一番近いんです。10年前には有人の駅があって、鉄橋があるとすれば……」


 そう。当時の茜音たちは駅の人に保護してもらっているから、当然その駅には人がいたはずだ。


 飯田線には昭和の終わりまではたくさんの有人駅があった。その後の設備整備に伴い、かなりの駅が無人になってしまった。


 茜音たちの思い出の日はその後のことだから、少なくともその後まで人がいる駅でなくてはならない。そして近くに鉄橋があるという条件を追加することになる。


 後で美保に聞いたところによると、萌も場所を選んだときに、その条件を当てはめて相当悩んでいたらしい。


「なんもないって事じゃ絶好なんだよねぇ……」


 茜音は早くも周囲の探索を始めていた。その場所に立たなくても、周囲の雰囲気という物はある。ただし、幼かった曖昧な記憶と同じような雰囲気になるのは、これまでにも経験していた。


「確かに大きな川じゃなかったんだよねぇ。この天竜川ではないんだろうなぁ……」


 天竜川には発電用などにいくつもダムを持つので、上流に来てもその川幅は結構広い。やはり萌と同じく、茜音もそこに注ぐ支流に目を付けたようだ。


「うーん、どうなんだろう。高さとかはバッチリなんだよねぇ……」


 萌が茜音に紹介したその場所は、天竜川から少し離れた線路脇だった。線路の下にはきれいな沢になっていて、今にも水遊びができそうな涼しげな雰囲気を醸している。


 ここまで知っている人はほとんどいないと思われる。道は獣道で、最近人が通ったようには思えない。だからこそ、これだけの景色が残されているのだろう。


「飯田線の中では一番条件がはまる場所です。あとは他の路線になってしまいますけど……」


 萌が苦心して探してくれた場所だけに、確かに条件はかなり一致した物がある。


「どう茜音……?」


 心配した佳織がそっと聞いた。


「萌ちゃん、これと同じような場所は9年前に他にもあったかなぁ……?」


「そうですね……。でもこの辺はあまり開発が進んでいないので、この近くではないかもしれません……」


「そっか……。景色だけで言ったら本当に似ているんだよ。でも、なんか感じが違うの……。言葉じゃうまく言えないんだけど……」


 景色や情景は本当によく似ている。ただ、駅からの距離など、他の条件を追加してみるとここだという確信が持てない。


「分かります。本当にその場所に行ったら、景色が変わっていたとしても分かりますよね」


 その後も、可能性のありそうなポイントを回ってみたのだが、茜音の直感が反応する場所は見つけることが出来なかった。


「ごめんね美保ちゃん、萌ちゃん……。迷惑ばっかりかけて、見つけられないなんて……。ごめんねみんな……」


 そばの岩に腰を下ろして、茜音は申し訳なさそうにため息をついた。

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