女軍人ローランド/姫騎士セラフィーナは一国を担う気高き女戦士

小鳥遊凛音

はじまりの章 第一節 出逢いと別れ、そして全てのはじまり

ずっと好きな人がいた。

その人は私の直ぐ側にいてくれた幼馴染である。

空気の様に自然と体に馴染み、呼吸の様に違和感なく私の生きる糧となる。


「さやちゃん?・・・宜しくね、ぼくの名前はくろとだよ」


笑顔のよく似合う男の子。沙夜はこの日から目の前の少年の事を想っていたのだ。


「おい、そこは危ないから降りて来いって!」


黒人が沙夜に向かって叫ぶ。

小さい少年少女が風船を持っていたのだが、少女が、

一瞬強い風が吹いた拍子に手を離してしまい木の上に風船が絡まってしまった。


「大丈夫!直ぐに取るから待ってて?」


笑顔で下から見上げている少年と少女に優しく声を掛ける。

少女は悲しそうな顔を浮かべながら心配そうに沙夜を見上げた。


「はい、取れた。手を離しちゃダメだよ?」


「うん、ごめんね?お姉ちゃん、ありがとう!」


少女は安心した途端、笑顔になって沙夜にお詫びとお礼の言葉を述べ、

少年と手を繋いで去って行った。


他愛の無い会話や出来事を堪能しながら二人は歩んでいった。

そんな、いつもの出来事がいつもの出来事では無い日が訪れてしまった。


「黒人、きょうは部活休みだから一緒に帰ろうよ。ちょっと寄りたい所があるんだ♪」


「そうなのか、じゃぁ放課後な」


沙夜が部活が休みなので、久しぶりに黒人は沙夜と共に帰宅する事になった。

帰りに寄り道をするちょっとしたデートである。


黒人も冷静な反応を見せるが心の中では踊っていた。


会話をしながら学校へ向かっていた朝の登校時刻。


ブルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~!!!!!


突然背後からとてつもない大きな音が聴こえて来た。

まるで車がアクセル全開で突っ込んで来る様な暴走を帯びた様な音である。

黒人よりも沙夜が一瞬早く気が付く。


「沙夜、危ないっ!!」 


黒人が叫びながら沙夜を壁側に突き飛ばそうとした。

だが、その動きよりも先に黒人は、一瞬にして壁側へと引き寄せられた。


「沙夜っ!!!」


刹那であった。

黒人は何がなんだか分からず壁にぶつかり転倒した。

だが、その訳の分からない状況の中でもはっきりとした状況が黒人を支配する。


「沙夜?さやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」


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総合病院


「恋人の方ですか?」


「いっ、いいえ、まだそこまでは・・・それより沙夜は・・・?」


「残念ですが、9時15分・・・息を引き取られました」


黒人を守る為に決死の覚悟で狭い道路を暴走して来た車から黒人だけでも助けようと沙夜は、

道路側を歩いていた黒人を間に合わないと判断した沙夜が自分の方へ引き寄せその弾みで自身が道路側へ投げ出される姿勢となってしまい、運悪く沙夜はその暴走して来た車に轢かれる形となり命を失った。


「そんな、嘘でしょう?嘘ですよね?嘘だって言って下さい・・・」


あまりにも突然の報せにより頭の中の整理が追いつかなくなってしまった黒人は、

担当医師の両肩をがっしりと掴み何度も確認を求めた。


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パァァァァァァァァァァァァ


眩しい光が差して瞼が焼ける様に熱く火照った。


「な・・・に?・・・」


目が覚めた。

ここは天国?それとも、地獄?

自分が今、何処にいるのか分からない。だが、黒人を守ろうとして自分が車に轢かれる所までは明確に記憶があった。

では、ここは三途の川と言った所で、今から自分はその向こう側に向かおうとしていたのだろうか?


「でも、ここってベッドの上だよね?」


自分の身体が自由に動く事を確認した沙夜は今、自分がベッドの上で寝ている状態である事を確認した。


♪コンコンコン


ノックの音が聴こえた。

扉が開かれ男性が入って来た。


男性は軍服を纏っており、軍人なのだろうか?それともミリタリーか何かか、

はたまたコスプレだろうか?

様々な疑惑を抱きながらこちらへ歩いて来る男性が驚いた様子で話を掛けて来た。


「ローランド様!意識がお戻りになられたのですね。良かった。本当に良かったです」


年の頃は20歳前後だろうか、青年と言った方がしっくり来る風情の男性軍人である。


「ローランド?・・・」


沙夜が自分を呼ぶ名前がローランドである事を確認すると共に、自国では無い事を悟った。


「もしかするとご記憶を?」


心配そうに尋ねる。だが、今ここにいる女性は紛れも無くローランドと言う女性ではなく、

つい数時間程前まではごく普通の女子高生をやっていた日本人の幼気な少女である。


「え、ええ、そうね。色々と覚えていない事があって、悪いけれど私の記憶があった頃の事を順番に教えて欲しいのだけれど・・・」


沙夜は、適応能力に適していた。

それは幼少期の頃から持っていた自分の長所と呼べる部分であるだろう。


「分かりました。では、目覚めて間もないので本日はごゆっくりお休み頂き、明日にでも」


青年は気を遣い今直ぐでは無く、翌日にと声を掛けたのだ。


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翌日


朝食を済ませた沙夜達は、早速ローランドと言う女性の経緯について話を聞く事にした。


「こちらがミーティングルームになります。戦の策を練ったり、様々な極秘事項などをこの部屋を用いて行っております。先ずはローランド様がどこまでご記憶を失くされていらっしゃるか伺いたいのですが、ご気分は如何でしょう?」


青年が沙夜(ローランド)の体調面を気遣い尋ねて来た。


「えぇ、気分は良いわ。話をお願いしようかしら」


一刻も早く自分の置かれている立場や状況を把握しなければ、

ここでしばらく様子を伺う事も叶わなくなってしまうだろうと思い、


沙夜は事故で死に追いやられてしまった少女とは思えない程元気な状態であるのだが、

目の前の青年の気遣いに感謝の念を抱き少しもどかしくなってしまう。


「ここはリーヴァンシュタルツ国で御座います。貴女様がこの国を治めている軍人のお一人、ローランド・ディア・グレンディーリッヒ様、階級は大佐です」


リーヴァンシュタルツ国

ローランド・ディア・グレンディーリッヒ

階級:大佐


今の青年からの言葉で分かった事と言えば、この3点である。

ここから考え出せる問題点とすれば、戦場であると言えるだろう。


だが、年頃の少女が戦争に駆り出されているなど先ず有り得ず、沙夜は突然「大佐」と言う称号と女性軍人と言う立場である事を確認させられてしまった。


「貴殿の名は?」


沙夜は尋ねた。だが、ここで沙夜はいつもの口調から凛々しい印象を与える力強い口調に変化させた。


「やはり、お覚えでは無いのですね。はい、私の名前はリリア・コーリクナーと申します。階級は、少尉です」


「リリア・コーリクナー・・・すまん、記憶がほとんど失われてしまっているみたいだ。だが、安心して欲しい。今、しっかりと覚えた」


この様に伝えるとリリアは、心なしか嬉しそうな表情を浮かべた様に見えた。


(私は本当に死んでしまったのかな?黒人は無事なのかな?)


目の前のリリアの顔を見ているとふと、黒人の事が頭を過った。


(リリアさん、黒人と少し似ている・・・)


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しばらく時間が経過した時には、既にローランドと言う女性軍人がどの様な人物なのか、どう言う素振りを見せ、考えを示しているのか大方把握した沙夜。


「敵国の動きからすれば、3日程でこちらへ到達してしまうだろう。

そこで先に攻め入る。我々の人員からすれば2日後にはこのエリアへ到達出来る。

ここは特に影響も無く戦う事が出来る場であるだろう。」


作戦会議を開き、今後の動きを説明するローランドは、

初めてこの世界へやって来てからほぼ毎日独学でこの国の戦術や、

ローランドについて、独自の洞察力、能力を最大限に引き出し勉強していた。


武道を嗜み、部活も運動系で大会にも数々出場していた沙夜は、体力も維持しながら、

自主トレーニングも欠かさず、出来る事は全てやってのけた。


それには、見ず知らずの世界へと流され、自分は死んでしまったのか生きているのか、

これが夢であるのか現実であるのか分からないもどかしさがあったのだが、

それよりも何もしないままで終わってしまうよりは各段に良いだろうと言う


彼女なりの持論であった。

元の世界に戻れるか分からないけれど、この国にはこの国に住む人間達が,

日々生きて行く事に真剣になり、戦い続けている事を受け、


自分も何かしなければいけないだろうと、ただここで暮らしているだけではいけない。

様々な感情が溢れ出しそれを正の感情として受け入れたのだ。


「ですが大佐、一度大佐も記憶を失ってしまわれる程の攻撃を受けております。

大佐ともあろうお方がその様な事態に見舞われてしまう程の攻撃を加えてくる敵国、

油断は出来ず、策はどの様に立てれば良いかを考えております」


「案ずるな」


ローランドはこの戦に敗北した。だが、今のローランドは元のローランドでは無い。

ここにいるのは、ごく普通の女子高生だった少女である。


だが、その少女の考え方がローランドには持っていない強さを抱えていた事は、

後の戦いに大きな戦果として功績を称える事となる。


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全てが順調であったかの様に思われていたが「戦」は必ずしも毎回勝利を掲げる保障など無い。

負ければ命に関わる致命傷を負う事にも繋がる。


「全員、今回は無事でしたが、敵国は何れ再び襲撃して来るはずです」


「・・・・・・・・・すまない。私の案件ではこれが精一杯であった」


「大佐は悪くありません。我々も団結力が不足していた次第であります」


仲間意識の強さは他国とは引けを取らない自信があった。

団結力、仲間を想う強い意志があれば、戦にも大きな成果を持てる事は過去の実戦からでも

一目瞭然であった。


何を注意し、どの様に攻めるべきだったのか入念に反省し、次へのステップを歩もうとしていた。


その様な状態からひと月程が経過した時に一通の報せが入った。


「何?先日の戦の敵国が滅ぼされただと!?」


ローランドが席を立ち上がり声に出した。


「何が起きていたのかこちら側では把握出来ませんでしたが、

どうやら敵国は崩壊したと伝言が入りました。」


「どう言う事だ・・・」


腕を組み俯いたローランドは、何が起きたのか頭の回転の早さから考え抜こうとした。だが、何も出て来ない。


一番の疑問点と言えば、敵国が狙われる様な状況下では無く、今は一対一の戦争である。


次に攻められて一番危険だと考えられる事と言えば、ローランドが指示を出していた為、ローランドの命が狙われる事くらいだろう。


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更に数か月が経過


次々と戦いが巻き起こる世界に沙夜は適応力を発揮してゆく。

だが、またしても沙夜側が敗北する戦が発生してしまう。


「くっ!またしても、今度は犠牲者が出てしまった。私には荷が重過ぎたのだろうか」


自室で歯を食いしばり悔しさを噛みしめていた沙夜。

だが、この負け戦となった戦いからひと月程が経過した後に、同じく相手国が滅ぼされたとの通達が入る。


「おかしい、一度ならず二度までも、それも他に敵国などいない様な状況であるはずが、

一体どう言う事だ?」


勘の鋭い沙夜は、この二度の救いの手が訪れたかの様な出来事に興味が沸いていた。

更に何度か同じ状況が繰り返されたある時、沙夜は確信した。


「ふっ。なるほど。これは国を助けるつもりではなく「私」を助けてくれている」


推測していた事が確信に変わった。

それは、敗北して来た戦についての敵側の狙いが全てローランドへ向けられていたと言う事であった。

大きな損失が無い場合の敗北であってもローランドが大きなダメージや損失を負った

際には必ず制裁が下されたかの様に敵側が敗北させられてしまっていたからだ。


「これは面白い。相手には悪いが少し付き合ってもらおうか」


既に一人でいる自室の中で、普段の沙夜の人格は消えてしまっていた。

今ここにいるのは、ローランドと言うひとりの女性軍人なのか、それとも沙夜の本性なのか?


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VSアインシティール国戦


「いいか、敵国のターゲットはこの私だ!私は出来る限り戦場から遠い場所に待機している。

諸君、くれぐれも「手荒な真似」だけはしないでくれ!」


不可解な言葉を述べその場を立ち去ったローランドは、馬に乗り、一目散にして山の頂の方を目指して去ってしまった。


戦場となったのは、国境付近にある広大な草原であった。

視界も良く、誰がどの位置にいるのかが明確である。


「あっちへ逃げたぞ!」


敵が見付け、ミサイルを放った。


ドッガァァァァァァァァァァァン!!!


「やったか!?」


ミサイルは一瞬にしてローランドの方へ到達し、大きな爆発音と共にその場が炎上した。


「大佐ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」


白旗を揚げ直ちにローランドの方へ仲間が急ぐ。


敵国はその白旗を見るとローランドの姿を確認しないまま引き下がった。


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「先日は、大変世話になりました。

ですが、これまでの例を見ると必ずひと月以内にアクションを起こして来る恐れがあります。

どうか、ご武運を」


「いえいえ、我が国は既にリーヴァンシュタルツ国あっての国ですので、

今回の件に関しましては、我々が自分達の意志でご協力させて頂いたに過ぎません。

どうぞ良い結果を齎してくれます様祈っております」


電話で互いにやり取りをしているのは、今回の目的を達成出来るか否かの話であった。

実は、今回の戦は全てローランドが企んだ偽装戦争である。


それ即ち、ローランドが直接命を狙われる所を何度も間接的に助けてくれていた者を突き止めようとしていたのだ。


だが、ローランドが心配している事は、今回協力してくれた相手国が滅ぼされてしまうかもしれないと言う点である。


電話ではこの様に伝えていたのだが、やはり自分から蒔いた種である。

刈るのも自分である事は、常識人としてのローランド(沙夜)にとっては当たり前だと言う認識である。


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ローランドの企みからほぼひと月が経過しようとしていた。


「では、しばし留守にするが何かあれば直ぐに連絡を」


ローランドは国を出た。

そう、先日の協力国に直接出向いたのである。


今回は本当の戦では無い。自分が助けてくれた相手を見付ける為の演出である。

ただ、相手を待つだけでは性に合わない沙夜は、自らをも犠牲になる覚悟を持ち相手国へと出向いたのである。


「まさか、直接お見え下さるとは夢にも思っておりませんでした。ですが、本当に宜しかったのでしょうか?」


出された紅茶を嗜みながらローランドはこの様に答えた。


「これは、私個人の問題です。それを協力国の方々にまでご協力頂き、のうのうと私は自国で茶を啜っているなどと到底出来るはずありません」


推測からすると、助っ人達が攻める時期はこれからの2~3日の間が妥当だと考えていた。

既にこちらへ向かっており、攻め入る頃合いを見計らっているに違いない。


その様に考えていると報告をしに相手国の軍人が入って来た。


「推測通りです。相手は数十名程ではあるものの、確実にこちらへ向かって来ている模様。このままだと後・・・」


ローランドの推測は正しかった。

数日の後に待ち望んでいた相手が攻めて来る。


今回、ローランドが直接相手国へ出向いたのには2つの理由があった。

一つ目は、協力してくれた相手国を共に守る為。

そしてもう一つは・・・


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更に2日後


「遂に相手側が到着しました。これより作戦に移ります」


その様に告げると、椅子に腰を掛けていたローランドが立ち上がりうっすらと笑みを見せた。




第一節 終

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