5話「逆行魔法」

「ここが貴様の部屋だ!」


乱暴に部屋の扉が開けられ、中のホコリが舞う。


メイド長に案内されたのは、長い間使われた形跡のない屋根裏の物置部屋だった。


あちこち床がめくれ、壁紙はボロボロ、カーテンは穴が空いていた。


家具は扉の閉まらないクローゼットと、ホコリだらけのベッドと、壊れかけた小さなテーブルとイスのみ。


これが侯爵夫人の部屋とはね、子爵家では使用人だってもっとましな部屋を使っている。


「旦那様とローザ様の真実の愛を金の力で引き裂いた女狐が! 貴様にはこの部屋がお似合いだ!」


メイド長はそう言ってドアをバタンと締め去っていった。


先日読んだ【白い結婚物】の小説に書いてあったセリフをそのまま言われ、吹き出しそうになった。


悪口すら自分で考えられないのか、ボキャブラリーが少なすぎるだろ。


「しかしこれは酷いな」


同じ屋根部屋でも、快適だった子爵家のとは大違いだ。


雪山の洞窟で熊と一緒に冬を越し、壊れかけの寺院で雨風をしのぎ、荒野にテントを張り数十年過ごした私は余裕で耐えられるが、もしこの仕打ちを受けたのがエミリーだったら……。


お嬢様育ちのエミリーは他人の悪意に慣れていない、侯爵家の人間に冷たくされたら……間違いなく泣いてしまう。


「エミリーと入れ替わって正解だったわね」


侯爵家の人間はひとり残らず後でとっちめる。


「さてと魔法の出番ね」


部屋に時を戻す魔法をかける、壊れていた家具は新品に、ボロボロの壁紙は真新しく、穴が空いたカーテンは糸くず一つない、床は張ったばかりのようにピカピカになった。


「壁紙はピンクの花がら、カーテンはコスモス色、クローゼットには薔薇が描かれていたのね」


古すぎて柄も色も失われていたから分からなかったわ。


「多少狭いのと乙女チックすぎるのが難点だけど、まぁいいわ」


使用人や侯爵には気づかれないように、私以外の者にら荒れ果てた部屋に見えるようにまやかしの魔法をかけておこう。


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