第98話 夏菜の夢

落ち着いてきた綾乃は夏菜ちゃんと少し飲み始めた。ミホさんは成り行きを心配そうに見守っている。


「綾乃、結婚するんだって?」


「うん、でも忙しくてなかなか結婚式は出来ないけどね」将暉パパと俺を睨む。


「夏菜は調理の専門学校に行ってたんでしょう?」


「うん、そうよ」


「ご両親の食堂を引き継ぐって言ってなかった?」


「そうしたかったんだけどさあ、やっぱりファーストフード店とかに押されちゃってさ、お店を閉めちゃったのよ」


「そうなんだ……それで連絡つかなくなったのね」


「うん、だからお金を貯めて自分のお店を持ちたいと思ってさ」


「そうなの、言ってくれたら出資したのに……」


「ほら!……だから言いたくなかったのよ」


「もう……」綾乃は少し膨れた。


「すみません、どんなお店を作るつもりなんですか?」俺は話に割り込む。


「私は両親がやってたように安くて美味しいくて、満足できるようなお店を作りたかったんだけど、今はそんな時代じゃ無いしね……」


「それにプラスして健康も考えてるお店なんていかがですか?」


「それはいいけど……きっと採算は取れないかもね……」夏菜ちゃんは少し考えている。


「もし、お店を出す費用も要らなくて、やりたい事がやれるところがあったらどうですか?」


「新さん、もしかして?……」綾乃は俺を見た。


「そうです」コクリと頷いた。


「ねえ夏菜、今度会社に社員食堂を作ろうとしてるの、手伝ってくれる気は無い?」


「社員食堂?」


「そうよ、安くて美味しくて健康的で、しかも社員が満足できるメニューを出したいわ」


「本当?」夏菜さんは将暉社長と俺を見た。


二人は並んで何度も頷く。


しばらく考えた夏菜さんは「綾乃、私それやりたいかも……」嬉しそうに目を輝かせた。


「じゃあ近いうちに会社にきて」


「分かった、行く行く!」


「もしかして……会社には新さんも居るんだよねえ」


「もちろんよ」


「新さん、やっぱり私を愛人にして?」


「夏菜!それはダメよ……」綾乃ちゃんは力強く首を横に振った。


「なんか夢が広がって来ちゃうなあ」夏菜ちゃんは乙女のような目をしている。


「夢ってどっちよ、食堂?それとも愛人?」


「それは…………秘密!」


4人は楽しそうに乾杯した。

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