高校一年生
第18話 同級生
「君ってさ、西山バスケ部の子だよね?」
クラスメイトの自己紹介と若い女性教師の話が終わったあとの休憩中、暇を持て余していた柚香に声がかかる。窓に反射して見えたのは高い背丈の男子生徒だった。
「はいそうですけど」
頬杖をついていた顔を向け、頭の中の記憶と目の前の人物を照会させてみるがどこであっただろうか?彼はかなり落ち着いていてさも知り合いのようにニコニコしているから男子バスケ部の部員なんだろうが・・・。
「よかった、俺このクラスにあんま知り合いいなくてさ~」
それを聞いてやや引き気味になる柚香。察っした彼は慌てて自己紹介をする。
「えっと、俺は前崎中学の
出身中学を聞いて義弟の顔が過り、幼馴染の気配を感じた。
「へぇ」
「覚えてたりしない?」
新手のナンパだろうか?なんて失礼な考えは置いといてじっと見つめて記憶の淵に腕を突っ込む。
男なのに楓なんて女っぽい名前なら憶えてそうだが思い当たる節はないので、向こうの学校で軽く挨拶をしただけかもしれない。男子も女子も練習試合は同じ日程だったから。
容姿は悠馬のようないかにもスポーツマンですよといった感じではなく、今風に髪を明るく染めたまだあどけなさが残る大人に移り変わる前の少年だった。多分高校デビューのために背伸びしたんだろうなと思わせる見た目にぺこぺこした態度、人懐っこさが初対面の隙間にするりと潜り込んでくる。
「いやー記憶にはあんまり」
「そっか。でもなんかの縁だしさ、とりあえず今年一年よろしくな」
中学の時の同級生とは異なる新鮮な感じ。周囲の男子生徒も学ランからブレザーに変わったのもあるのか別の人間に見えてしまう。
「うん、よろしくね。私は宮村柚香、柚香でいいよ」
一応微笑で答えるが、照れてしまったようだ。
「あっと、宮村は高校でもバスケやるの?」
「私はいいかな、別のクラスの須崎って奴は続けるだろうけど」
「あー前に話したことある。いかにもバスケ一筋って感じだよな」
話し方も軽くなり彼の遠慮も薄れてきた。このぐらいの距離感の男子は貴重だから仲良くしようと思った柚香。
「もう休憩時間終わっちゃうし、そのことで話したいならあとであいつのクラスに行ってみなよ。確かC組だったかな」
「ああ、ありがとな。じゃまた」
「うん」
表情を柔らかく崩し手を振ってみる。
自分の手先の浅黒さと、彼の色白さに違和感を覚えたのはあとのことであった。
♦♦♦♦
「宮村さんと話すのってこれが初めてだっけ?」
教科書類などが配られ一日の半分が終わった昼休み。
騒がしい教室ではすでにグループがいくつもできあがっていて、他クラスの生徒の影もチラホラ。楓の姿も見えないことから他所のクラスに遊びに行ったんだなって考えていたら、急に彼女が話しかけてきたんだ。
「ちゃんと話すのはそうかもね」
彼女は同じ中学の同級生。
「そう。それよりここいい?」
黒髪を長く伸ばし前髪も綺麗に切り揃えられた女生徒は、柚香の隣の空席に当たり前のように座る。
「斎藤さん、そこ橘さんの席・・・」
「そうね、でも本人が不在だししょうがないでしょ?まさか床で食べろとでも?」
「そうは言ってないけど」
安らぎの時間は呆気なく壊された。
この
年の割に大人びていて中学時代もクラス委員や先生の手伝いなど率先してこなし、生徒の悪事はすぐにチクる裏表のないいい子だった。
だから疎まれることもあったし、一部の女子は陰口を叩き若干孤立していた。そんなことに気付いていたのか知らないが、最後まで彼女は自分の信念を突き通し卒業した。そこだけは柚香も尊敬していた。
葵の同級生の愛内梨華とは似ても似つかない
どうしてこう面倒臭い人に絡まれてしまったのかと自分の運のなさを呪うが、他の西山の生徒は初対面の子と弁当を囲んでいる。必然的に冬海は私を
「冗談よ、高校でも一緒になれて嬉しいわ」
「なんで?」
「私って小中ずっと真面目だったでしょ?」
「(自分で言っちゃうんだ)」
「だから高校ではもう少し肩の力を抜こうと思ってね」
「いつも力を抜いてたアナタを参考にしたいって考えたの」
「(わしゃ動物か)」
彼女は思ったことを包み隠さずストレートに言うので他人を怒らせることを平気で言う。けれど悪気がないのは知っているからあえて突っ掛かるのも話をこじらせるのでやらない。
柚香はいい意味で空気の読めるところがあり、その部分を冬海に評価されているのだが柚香の知るところではなかった。
「高校は楽しめそう?」
「んーどうだろうね?勉強次第?そーいう冬海は?」
「私は・・・友達次第かしら」
「ははっ、中学は友達いなかったもんね」
「いたわよ、両手で指折れるくらいには」
「そういうアナタは多かったわよね?高校でも部活は続けるの?」
話しながら大判なスカーフを広げてゆく。出てきた黒い弁当箱は二段式になっており高級感が漂っていた。
柚香も相槌を打ちながら黄色いスカーフを開き、黄緑色の大き目な弁当箱を広げる。固く閉じられていた蓋を取ると、むわっと白米の熱気と冷めてても美味しそうなオカズがドンと目の前に現れた。隣の冬海も似たようなものであり、箸を持つ。
「「いただきます」」
様々な匂いが混ざる教室で自分達も同じよう楽な姿勢をとり、質問に答える。
「ううん、バスケはもういいかなって」
最初にアスパラのベーコン巻きを食べ、何度か聞かれた放課後の暇潰しを否定する。
「あんなに頑張ってたじゃない、もったいない」
冬海は茶色が目立つ
「私にとってはただの部活だから、マジになってまでやるものじゃないんだ」
「そんなもの?私は高校も同じ習い事を続けるわ」
「どんなの?」
「ピアノと華道に茶道」
「おお・・・」
言われればそんなことをしてそうだ。
「なら放課後、遊べないね」
「別に毎日が習い事ってわけじゃないわ。ただ部活を選ぶ余裕はないけど」
「冬海ってさ、学校以外で友達と出掛けたことある?」
その質問にピタッと箸が止まった。
「・・・あるわよ」
「そう?でも文化祭の打ち上げとか見た記憶ないけど?」
別に意地悪しているわけではない。彼女のことだからどうせ親に行くなとか自分は嫌われていて行くと場をしらけさせるから自制したとかあるんだろうが、それでも聞かずにはいられなかった。
「たまたまよ」
「ならさ、放課後寄道しようよ」
柚香はただなんとなく、友達として言った。暇になる時間を冬海と潰すなんて中学の時には考えられなかったが。
悠馬は部活があるだろうしもう話すことはないだろうし、葵には葵の放課後がある。
なら私も新しい出会いと青春を謳歌するのはおかしくないだろう?
そんな深く考えもなしに言った一言が、どうやら冬海の胸には突き刺さったようで、
「いつ行く?」
と普段の性格から考えられないような感じで返事をくれた。
「えっと、明日以降?」
「空けとくわ」
「いや無理はしなくていいよ。私どうせ帰宅部になるしさ」
なんとなく抱いていたイメージが払拭されたこの時間。
彼女は思ったよりも面白く柔軟な人物なのかもしれない。
なんて考えながら中学の話に戻る柚香と冬海。
こうやって親しく話せるのであれば中学の時にもっと仲良くしておくのだったと反省する柚香なのであった。
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