仕事とプライベートの関係
『テ アライ ヴィンヤード シュナン ブラン
2019
ミルトン ヴィンヤーズ 』
三度目のミルトンだが、他のギズボーン産ワインが日本に入荷していないので仕方がない。
今回は、白品種シュナン・ブランだ。
シュナン・ブランは、フランス・ロワール地方原産、ニュージーランドやアメリカなどでも栽培され、南アフリカでは特に成功している品種だ。
極辛口から甘口の貴腐ワイン、スパークリングワイン、酒精強化ワイン、ブランデーと実に多彩なスタイルで造られる。
世界的に有名なワイン評論誌『The World of Fine Wine』の編集者ニール・ベケット氏による「死ぬ前に飲むべき1001のワイン」にも選ばれた、ニュージーランド産シュナン・ブランの最高峰と言われている。
1001は多すぎるだろうと思ったのは内緒だ。
では、開けてみよう。
色味は濃厚な黄金色だ。
樽を使っているからか、やや木の香り、オレンジのような柑橘系、ハチミツのように甘い香りもある。
味わいは、桃のようなフルーティーだが、酸味も豊富で甘すぎずスッキリとしている。
厚みのある味わいだが、飲み口が優しくグビグビと飲めてしまう。
『カレイのフライ』
カレイは、ギズボーン近海でよく取れる。
しかし、英語圏ではFlounderと呼び、カレイもヒラメも同じ扱いなのだ。
実際はヒラメの可能性もあるが、細かいことは気にしない。
それが人生を楽しむ秘訣だ。
今回はシンプルに塩コショウで味付けをしてフライにした。
淡白な白身に塩のミネラル感が実によく合う。
パリッとした衣の香ばしさもまた食欲をそそる。
白身もエンガワもまとめて美味しく食す。
そして、ワインと料理を合わせる。
白身魚と白ワイン、定番中の定番、合わないわけがなかった。
シュナンブランの酸味が、白身魚にレモンを絞ったかのように味が引き締まる。
塩のミネラル分もワインと良く混じり合い、後味もスッキリとさせる。
衣の香ばしさも樽のニュアンスとよく合う。
つまり、このワインと料理は最高にバランスよくお互いを補い合っている。
料理とワインを結婚、マリアージュと呼ぶが、仕事とプライベートの関係にも共通している。
働くことと遊ぶこと、そのバランスが上手くできていると、人生が豊かになるのだと思う。
☆☆☆
ワイナリーの仕事は、正確に決まった時間だけ働くという業種ではない。
全てはブドウ次第だ。
ニュージーランドの中堅から大手ワイナリーでは、ブドウの収穫は機械で行い、その収穫されたブドウは大型トレーラーに積まれてワイナリーに運ばれてくる。
ピーク時はひたすらそれらのトレーラーがひっきりなしにやって来ていた。
やがて、トレーラーの数は減り、来ない日がやってきた。
最盛期は過ぎ去ったのだ。
その後も仕事はあるのだが、ブドウの来ない日が数日続いた。
そうなると、僕たちにも休みが与えられた。
ちょうど、イースターの頃だった。
イースターは、キリストの復活祭であるが、日本ではあまり馴染みがない。
正確な日付は決められていないが、春分の日の後の、最初の満月の次の日曜日、とざっくりとしている。
ニュージーランドは南半球で季節が逆なので、秋分頃だ。
「へい! イースター連休だからキャンプに行こうぜ!」
キャンプ場に住んでいる僕にキャンプに誘うという不思議な現象が起こってはいるが、細かいことは気にしないでいい。
職場は違うが、この街に同じく住んでいるチェコ人のカップルたちに誘われた。
彼らも始めは同じくキャンプ場で暮らしていたが、その当時は街中のシェアハウスに住んでいた。
他にもこの街に長く住んでいる外国人たちも一緒に参加した。
それなりに長く住んでいると、友人知人というものは出来てくるものだ。
オフロードに適した車ではないので、たどり着くまでに段差やタイヤが砂にハマらないか心配だったが、街からは離れた無人のビーチへと無事にやってきた。
そこでキャンプと洒落込むわけだ。
ビールをそれぞれケースで持ち込み、ワインも一ケース持ってきた。
食料もビーチに掘った穴で、流木などで焚き火をしながら焼いて食べた。
「おお、やってたか!」
と、同じキャンプ場で何年も暮らしている、マオリの老夫婦がクーラ―ボックスいっぱいのカレイを持ってやって来た。
近場の海で投網をしてきたそうだ。
このカレイも焚き火で焼き、美味しくいただいた。
月と海、ビールにワイン、焚き火でバーベキュー、そして、文明の利器で最高のカントリーミュージック、アウトローで自由なウィリー・ネルソンをかけ、夜は更けていく。
朝になれば、日の出とともにコーヒーを楽しみ、心地よい潮風に吹かれる。
釣り竿でもあれば、海に向かって糸を垂らしても良い。
キャンプの楽しみ方はそれぞれ自由だ。
気のおける友人たちとアウトドアに勤しむ。
実にシンプルな生き方だ。
だが、仕事の合間にプライベートを充実させる、これが本当に豊かな人生ではないだろうか?
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