温泉に行こう
『コート カタラン レ カルシネール ルージュ
2017
ドメーヌ ゴビー』
スペイン国境に接するコート・カタランの険しい丘陵に畑を所有し、その周囲の土地40ha以上を環境保全のための買い取り、さらに近年は、自社畑よりも標高の高い畑を買い取って雨による化学物質の流入を防ぐなど、卓越した情熱で自然環境の整備を続けるドメーヌワイナリー。
このワインは、GMS(グルナッシュ、ムールヴェドル、シラーのブレンドで頭文字の略、南仏ローヌの伝統的なブレンドのこと)とカリニャンがブレンドされている。
濃厚でどっしりとしたボリュームだが、タンニンの渋みが滑らかで口当たりは優しい。
カシスやプルーンのような凝縮された果実味とスパーシーさがバランスよく取れていると思う。
これだけで飲んでも充分に美味しいが、料理と合わせてみる。
『カタルーニャ風骨付きチキン』
カタルーニャ地方の料理は、日本人にとっては少々馴染みのない味付けをする。
まずはソースを作るため、みじん切りにした玉ねぎをオリーブオイルで炒め、トマトと赤ワインを少々加える。
ここからさらに、ドライフルーツとナッツを加えるのだ。
ドライフルーツの自然な甘みとナッツの香ばしさが料理にコクを出す。
このほんのりと甘いソースと骨付きチキンの旨味がよく絡み合い、肉の味を引き出す。
骨から出たダシの旨味、皮も付いたチキンの肉汁の味わいに手が止まらない。
やはり、カタルーニャ地方は食文化が豊かだ。
ワインもよく進み、あっという間に皿の上には何も無くなった。
そして、ほっと一息ついた。
胃袋が満たされると人は幸せを感じるものだと思う。
グラスに残ったワインを口に含ませると、仕事で疲れた気分も癒やされた。
☆☆☆
城塞都市カルカソンヌを満喫した後、地中海沿いをさらに南下してペルピニャンまでやって来た。
ペルピニャンはフランス領カタルーニャの中心都市、スペイン国境までほんの30kmに位置している。
そのため、街並みはスペイン色が強い。
と言ったら、カタルーニャ人に怒られるかも。
ペルピニャンには、いくつもの観光名所がある。
13世紀ごろにあったマジョルカ王国期に建てられたマジョルカ王宮、王宮の周囲には、要塞攻城の名手ヴォーバンによって17世紀に増築された星形要塞の稜堡が巡っている。
次にカスティエ門、ペルピニャン旧市街の入り口に建つ門で、15世紀のルイ11世時代には
他にも、巨大なゴシック建築の大聖堂で、一部がロマネスク建築と一体化していたり、建物右側に個性的な鐘楼が設けられていたりと、その造りが個性的で面白いサン・ジャン・バティスト大聖堂、などなどがある。
近郊に足を向ければ、地中海の惜しみなく降り注ぐ陽の光と彩り豊かな町並みで、アンリ・マティスやポール・シニャック、ピカソなど、名だたる芸術家たちを魅了したコリウールがある。
アンチョビが名物。
だがしかし、ただ観光名所を巡るだけでは面白くない。
僕はふとした時に、何かの記事を見て、すぐにピレネー山脈の奥へと向かった。
そこには、温泉があるらしい。
僕はローカルバスに乗り込んだ。
ちなみに、フランスは一日に数便と便数は少ないが、意外と辺境にまでローカルバスが走っている。
しかも、料金は安い。
区間ではなく、一回乗って当時は2ユーロだった。
一区間でも、終点まで乗っても同じ料金なのだ。
今回向かうのは、フランスとスペインの国境に跨るピレネー山脈東部ドール村、ペルピニャンから約3時間だったと思う。
乱暴な運転で走るバスの中は、出発時は混み合っていたが、到着時にはほぼ僕一人になっていた。
そして、目的地のドール村にやってきた。
こじんまりとした山間の田舎らしい村、日本の温泉街とは全く違った雰囲気だ。
ホテルはあるが、それらしい観光地という感じではない。
とりあえず、温泉のある方向を示す看板に従って山道を進んだ。
舗装されたアスファルトの上を歩いていると、石造りの小さな建物が見えてきた。
どうやら到着したようだ。
僕は、料金(確か4ユーロか5ユーロだったと思うが、細かい金額は忘れた)を支払って、中へと入っていった。
そこには石造りの比較的新しめの小さな湯船がある。
古くは先史時代から活用され、ローマ時代にはすでに浴場として使われていたそうだ。
現在では男女混浴ではあるが、水着着用なので温水プールのようなものだ。
硫黄臭さは感じなかったが、後で調べると源泉には硫黄が含まれているらしい。
さて、僕も水着に着替え、先客の老夫婦に混じって湯船に浸かった。
うむ、ぬるい。
が、普段シャワーしか入っていなかったので足の伸ばせる湯に浸かっているだけで気持ちいい。
眼前には、ピレネーの荒々しい山々が広がる最高のパノラマだ。
ああ、温泉に癒やされる。
この瞬間、僕も日本人なんだな、と実感した。
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