10.殿下…ありがとうございました

この婚約は…

殿下が不正を行なっている貴族を炙り出す為に計画したものでしたのね。

我が家に力を持たせたくない貴族ということは力を持たれては困ることがあるのです。

お父様はその辺はしっかりされてますのでそんなことをしたら即刻役職など外されてしまいますもの。

ですから殿下は我が家に力を付けさせるように計画した。

そうすれば私と殿下の婚約を何とかして無いものにしようとする者が出てきますからね。


それがたとえ…

私に消えない傷や殺人であろうと…

不正をする者など自らの利益の邪魔になると知ればできる限りの排除を試みるものばかりですからね。

特に少しであっても力を持っている者は…


ですから…

私との婚約など…

もとからあってなかった様なもの…

だって裏切り者を見つける為に必要な事だったんですもの。

だからどれだけ私が殿下との婚約を破棄しようとしても…してくださらなかったのですね。


もう…私はなんて意味の無いことをしていたのでしょうね?

自分でもおかしくて笑ってしまいます。

本気で私と殿下が結婚するのではと思っていました。

そんな訳ありませんのにね。


その事実に気づいた時に動揺してしまったのです。

私は殿下を好きになってはいけない、殿下との婚約はなんとしても破棄しなければいけない…

そう思って誤魔化してきましたが…これだけ動揺してしまっては隠しきれませんね。

本当は気づいていたんですよ。

だから早く…

少しでも早く…


婚約を破棄して頂いてこれ以上殿下への思いが強くならないようにと…

思っていましたのに…

無駄に顔が良くてスタイルも良くてどうしようもないくらいかっこいいと思ってしまいますし。

体面を保つ意味として婚約者として扱わなければいけないからなのでしょうか?

変に優しいですし。

私の言葉をしっかりと覚えていてくれますし。

色々なとこで気にかけてくださいますし。


私が…

勘違いしてしまいそうな言動をされて…

なんでさっき心配そうにしたんですか!

本当に…私のことを気にかけてくださっているのではと思ってしまうのですよ!

そんな優しさいりません!

突き放してくださらないから心のどこかでもしかしたらと期待してしまうのですよ!

本当に酷い……


「ごめんね。突然暗殺とか…聞かせるべきじゃなかったよね。大丈夫?着いてきて、そこで休むといいよ。」


そんな風にエスコートしないでくださいよ…

なんでまだ優しいんですか?心配してくださるんですか?



***



優しくソファまで案内され、殿下は隣にお座りになりました。

私が体調を崩して倒れるのではと心配してるのですか?

まだ一応婚約者ですものね。


「殿下…ありがとうございました。もう私との婚約は必要なくなったのでしょう?」


私があなたの記憶に残るのでしたら…

できる限りの明るい笑顔を作ります。

今更遅いかもしれませんが…

私への記憶が…

少しでもいいものになりますように…


「まさか…僕があなたと婚約したのはあの人達を炙り出す為だけだと思ってるの?」

「違うんですか?私の父はそういうことには厳しい人ですから父が力を持たないようにする者を炙り出す以外にも何か?」


やはり殿下の考えは私には理解できないようです。

これでも色々学んでいるつもりなのですが…

情報が足りないのもあるかもしれませんが頭の作りが違うのでしょうか?


「その…はぁ…あなたは僕との婚約は嫌なの?」


ため息?!

私が馬鹿すぎて呆れたのですか?!

それにその質問は…

真剣にたずねられているのですよね?


「私の頭が足りずに呆れさせてしまったのでしたら申し訳ないです…その…婚約は嫌なわけではありません。でもやはり…殿下と私が婚姻を結ぶとなりましたら我が家に力が集中してしまいます。それは…危険なことかと思います。」

「え?!あなたの頭が足りないなどそんなことは全くないよ!普段の仕事や社交時の気遣い、初めから婚約の危険性に気がついていたこと、それに今日だけで彼らの炙り出し方を理解したことからも分かるよ。」

「あ、ありがとうございます。」


そんな真っ直ぐに褒められると少し照れてしまいます。


「うそでしょ…」


殿下が頭を抱え呟きました。


「どうかなさいました?ご気分が優れないとか?」

「なんでもないよ。気にしないで…普段と違いすぎて…」

「その…今まではどうにかして破棄して頂こうと考えていましたので…」

「僕との婚約は嫌な訳ではないんだよね?ティファニー公爵家に力が集中することが良くないと考えているからってだけなんだよね?」

「は、はい。その通りですけど…?」

「逆なんだよ…」

「え?」

「あなたと婚約が先なんだよ…あなたが好きだったから反対勢力を黙らせて手に入れようとしたの。もちろん公爵家同士の力関係が崩れることも危険があることもわかっていたけど…」

「え?私が好き?」

「そうだよ。でもなきゃこんな面倒なことするわけないじゃん。それからティファニー公爵家に力が多少集中しても問題ないようになってるからその心配はないよ。」

「え?どういう??」

「ここ最近ティファニー公爵や僕が忙しくしてた理由。色々と体制を整えていたんだ。」


え?お父様?聞いてませんよ?


「ちなみに公爵には絶対あなたに言わないように念押ししといたから責めないでね。」


なんで考えてたことわかるんですか?!


「だからその辺のことは心配しなくていいよ。好きだよ。あなたの事が…だから僕との婚約を続けていつしか婚姻を結んで欲しい。素直な…王子とか公爵令嬢とか考えずにあなたが僕をどう思っているか教えて?」


私が殿下を…どう思っているか…

申してしまっても…いいんですか?

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