ムコ殿、表舞台に立つ。
「くははははっ! 久々に楽しめたのう!」
「それは俺の台詞だ……
「そうかそうか、異世界人はなまっちょろい印象じゃったが、ムコ殿はほんに凄いもんじゃ!
「いやいや俺なんてまだまだ……ユニット抜きで倒せなくてはな」
「儂なんぞユニット抜いたら遠出すんのが一大事になっちまうわ、かっかっか!!」
黒髪の大男――本多 宗茂を
その老人の名は、レイヴン=B=ウィロウ。
今、宗茂達が滞在しているウィロウ公爵邸の主人であり、ナヴァル王国に所属する東国境方面統括軍、通称、東方軍の総指揮官。
そして、東国境に配備している、とある魔導器の所有者。
城塞型魔導器――魔導
ナヴァル王国国王クリストフ失踪から約半月。
デラルス大森林の開拓もそこそこに宗茂一行がやって来たのは、特等級鑑定師であるエリザの実家。
ナヴァル王国北東部一帯に位置するウィロウ公爵領に、宗茂、ティアナ、エリザの3人がやってきた。
理由は3つ。
「ところで
「ああ、うちの奴らと一緒になって、畑いじりを楽しんでるよ」
「そうかそうか、あやつの飼い犬も
「アイツが適任だからな、猟犬の素養は十分だ」
「元は野犬じゃからのう……最近は行儀よくなっちまってて相手取るに益体も無くなってたが……かっかっかっ、ムコ殿と遊んでから野生を取り戻して雰囲気が変わったとは聞いておる。今後が楽しみじゃのう」
約半月前にデラルス大森林西の最奥、つまり宗茂らが開拓している其の地に転がり込んできた初老の紳士とその従者の近況報告が、まず1つ。
「それと今さらだが、ティアナを――」
「皆まで言うでないわ、ムコ殿よ。ウチと養子縁組しておけば、バルグのクソ坊主から匿うのは容易になる。翠風の聖女が蒼殿の庇護下にあることも暗に示した。今、あの娘に手を出そうものなら――」
「ネフル天聖教
「うむ……ネフル天聖教における最大戦力――竜聖の盟約を相手取るならば、大陸の半分程度を制圧できる戦力が無ければ、まず無駄死にじゃからのう」
「そう考えると、やはり権能というのは凄まじいな」
「ムコ殿の話と伝承を考えれば、単騎で大陸を滅ぼせる訳だしのう……今現在、ガルディアナ大陸で知られている権能持ちは、ムコ殿を除けば3つ」
「傲慢、憂鬱、色欲だな」
「うむ、このうち憂鬱と色欲は、獣人の王とエルフの女王が代々引き継いでおる。竜聖の盟約を長年遵守し、ネフル様を支持してきた者達、そこらの人族よりよっぽど頼りになるわい」
レイヴン公直々に、獣人の王とエルフの女王に文をしたため、ティアナの聖女就任への支持を
結果、ネフル天聖教霊長派を中心としたバルグ枢機卿一派
ガルディアナ大陸に新たなる聖女――翠風の聖女ティアナ=B=ウィロウが誕生した。
宗茂は、ティアナに関することへの感謝の意を示すためにウィロウ公爵領を訪れた、これが3つある理由の2つ目。
就任が決定したと同時に、レイヴン公自らが、王都ナヴァリルシアに居を構えるネフル天聖教ナヴァル王国本部に赴き、伝えるべきを伝えた。
翠風の聖女就任が公式に認定されたこと。
ティアナがウィロウ公爵家の一員になったこと。
そして、翠風の聖女がデラルス大森林の開拓を始めたことを伝えたことで、ティアナの背後には、レイヴン公が率いる東方軍が有ることを示した。
ナヴァル王国に、新たな勢力が生まれた瞬間である。
結果、ナヴァル王国では、これまで水面下で続いていた王位継承権争いから、仮初めの空位を奪い合う王座争奪戦へと変わっていくことになる。
勢力は4つ。
第1王子にして王太子であるアレクセイ=A=ナヴァル。
彼を旗頭とするのは、ナヴァル五公であるカーヴィス公爵、ボルケティノ公爵の2人と、彼ら2人を支持する各地の貴族達。
第2王子であるアルフリート=A=ナヴァル。
彼を旗頭とするのは、ナヴァル王国宰相であるダグラス=ランフィスタ侯爵、その息子であるシルバ=ランフィスタ率いる第1騎士団、バルグ=オルクメリア枢機卿が支配するネフル天聖教ナヴァル王国本部。
第1王女セレスティナ=A=ナヴァル。
自身が団長を務める魔法師団およびナヴァル魔法学院が彼女を旗頭としている。
そして、4番目の男。
ナヴァル五公にして三大公と呼ばれるウィロウ公爵家とオーバージーン公爵家の二大名家と翠風の聖女が支持を表明したことで、ナヴァル王国の実権を握ることが可能になった――黒髪の大男。
彼の名は、ムネシゲ=B=ウィロウ。
ナヴァル三大公――王国建国の礎であり、王位継承が正式に認められている三家の1つであるウィロウ公爵家が、これまで辞意していた王位継承権を主張。
現ウィロウ公爵であるレイヴン公の養子となり、次期公爵となった彼が旗頭であると、ナヴァル王国全土に公布された。
これが、宗茂達がウィロウ公爵領に来た理由の3つ目である。
ナヴァル王国国王であるクリストフの失踪。
さらに第4勢力が台頭したことにより、これまでは消極的な削り合いでしかなかった王位争いが、積極的な潰し合いの様相をみせる王位争奪戦へと姿を変え、水面下で始め
王位争いが行われる舞台は、いわば表側。
表が動けば、
ナヴァル王国の実権を巡る争いの主導権を握りたいのは、隠れ潜んでいた者達も同様。むしろ、そういった者達こそが権力を欲してやまないからこそ、動かなければならない。
そして、
これは稀代の軍略家でもある本多 宗茂が仕掛けた変則的な空城の計、言うなれば――
ナヴァル王国史上最大規模の内戦――ナヴァル大戦、その幕が民衆に知られることなく、ひっそりと開こうとしていた。
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