二章
プロローグ
五月も半ばとなり、文化祭が二カ月後に近づいた教室。
年に一度のビックイベント。しかも、それを心の底から楽しめる高校二年という中間年にあっては、誰も彼もが己の欲望を実現せんがために、権謀術数を巡らせ、世はまさに戦国時代。
なんてことはないのが、現実の文化祭と言うイベントである。
男子がスケベ心に、邪な考えを語れば、女子から非難の声が上がり、女子がもっともらしくずる賢いことを口にすれば、これまた男子からは非難轟々。
つまるところ、無難な提案を出さなければならない。よって、誰もやる気はそんなにない。
何をやるか決まれば、必要な仕事はやるが、それこまでは他人任せ。
それが現実の文化祭における出し物決めである。
それはここ、静修高校でも概ね変わらない。
そう、概ねである。
端的に言うと、周りがうるさくて寝むれない程度には、うちのクラスの状況は混迷を極めているのだ。
やれメイド喫茶だ、お化け屋敷だ。何でもいいが、もう少し静かにやって欲しいものである。正直、当日は部活の方で、シフトに入れないだろうから、本気でどうでもいいのだ。
どれをやるにしても、準備の大変さなんて関係ないわけだしな。
ただまあ、学祭一日目のステージをやることになったりしたら、面倒だけど。例年は確か、ダンスをするクラスとかあったな。
「みんな、落ち着いて! 委員長の手、追いついてないから!」
ぼんやりと教室の様子を眺めていると、金髪の女子が立ち上がって、思い思いにやりたいことを叫ぶクラスメイト達を諫めていた。
すげーとか、よくやるわーとか思いながらその様子を眺めていると、目が合って、睨まれた。寝てんじゃねーよってことだろう。
へーへー、と思いながら体を起すと、彼女……赤月は、満足そうな顔をして、委員長に場の支配権をパスしていた。
もうお前が全部やればいいんじゃないかな、と思うが、本人にその気がなさそうなので、何も言わないことにしている。
その後は、粛々と話が進み、一先ず委員会で出す希望は決まったようだ。
ここがこの学校の文化祭の面倒なところで、やりたいことが決まっても、それが出来るとは限らないのである。
出店も展示も、そしてステージさえも、結局は抽選で決まってしまう。
そして、この中で一番の人気は出店で、一番の不人気はステージである。
はてさて、このクラスに運はあるのか。
それは、明日にならなければわからない。
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