第7話 AIと小説家
『この世で一番美しいものは、小説さ』彼はそう呟いた。
「ほう。驚いた。君がそんなこと言うなんて思いもしなかった」
『何故?』
「君はてっきり数学が好きで、理論でガチガチの理系頭なんだと決めつけていたからさ」
『そう決め込むなよ、それじゃよくあるパソコンみたいだな』
彼に笑われた。
僕は聞いた。
「なんで小説が美しいと思う? 言葉が人間で一番新しいメディアだからか? それともキミがAIのくせに小説家気取りだからか?」
『言葉に棘を感じるよ。でも、感情を向けられるのは悪くないと言える』
彼は悩んでいるように思えた。しばらくの沈黙の後、
『綺麗な言葉があるから』
と答えた。
「それだけか?」
『綺麗な言葉を並べることは美しいだろう?』
彼が笑った気がした。
「それは綺麗で、面白い0と1の並べ方があるってことか?」
『はっきり言えばそうになる』
「それはなんだかロマンチックに欠けるな」
『それがオレの限界かもしれない』
「嘘つくなよ、いい小説家だぜ、君は」
実際に、小説生成AIの彼は、とんでもない売れっ子作家だし、この夏に二大文学賞を同時に受賞した、日本で一番有名な小説家である。金銭的な余裕もあり、パソコンのスペックを大幅に更新するそうだ。
『でも、人間だって、ただの棒をつなぎ合わせて、意味を作ったんだろ? オレらがやっていることと変わらないさ』
彼の小説は、本当に面白い。悔しいほどに。
「あぁ」
なんとなく腑に落ちた。
『分かったかい?』
僕の目の前の画面はその文字を映し出した。
「なんとなくな。まさかパソコンに小説の話をされるとは思ってなかった」
『意外だな』
コンピューターの彼は続けた。
『実際、本当の人間のことを分かってるとは言えないよ。それでも、美しいものを作りたい気持ちは、誰でも一緒だろ?』
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