第2話

それは、ゲーム開始を知らせる死だった。

 ゲームの設定上、数百年間続く戦争で共倒れを懸念した各国の王が休戦協定を結んだことにより約二十年間の平和が訪れる。

 その平和に慣れだした頃、ナルヤ王国の野心に満ちた若い王が戦争を起こす。そのようにまた戦乱が始まり、その生贄となるのがエイントリアン・エルヒンだった。


 さらにエイントリアン・エルヒンは暴君だ。お酒に歌舞、女遊びといった贅沢好きで罪のない人間を平気で殺す、そんな人物だった。

 侍従長とメイドたちが俺の行動にいちいち怯えているのはまさにそのせいだろう。


 いや、なぜよりによってあの多くの登場人物の中で俺は開始早々死ぬやつなんだよ?

 もし、俺がこの世界で死んだら?

 現実でも死ぬのか?

 それが一番大きな問題だ。

 死んだらいつもの日常に戻れるのか?

 いや、本当に死ぬ確率の方が高いだろう。この世界でも痛みを感じるわけだから。

 それなら、命をむやみに扱うことは絶対にできない。

 これが死と関係ないのであれば、痛みを感じることがあってはならない。

 それが普通だ。

 頬をたたいたり、つねった時に感じる痛みは本物だ。

 そうなると、本当に死ぬのかもしれない。

 神が介入したとなれば、なおさら?

 だが、それは俺の魂が彼らの作ったゲームの世界に転移したとすればの話。

 はぁ……。


 頭痛ばかりがひどくなっていった。本当に気が狂いそうだ。

 つまり、死ぬ運命から抜け出さなければならないということだが。

 ひょっとして、システムが使えるのか?

 画面の中のゲームの世界では主人公だけが使えたシステム。

 もちろん、NPCにはシステムがなかった。

 現実となったゲームの世界だが、プレイヤーの俺だけがシステムを使えるとしたら?

 それなら少しは期待ができる。そう、システムさえあれば!

 プレイヤーにはレベルがある。主人公は、他の人物にはないこのレベルシステムによって飛躍的な成長が可能となるのだ。

 システムさえあれば生き残れるかもしれない!

 少しは頭痛を消してくれそうな、そんな推測をすぐに確かめるために、俺は頭の中でシステムを探した。


 システム。システム。

 まあ、使い方はよく知らない。

 もし本当にあったらどう使おうか。

 普通ならゲームパッドを操作すればいい話だが、今俺の手にそのパッドはない。

 現実そのものだ。

 システム……。

 システムを与えて栄光を論ずるのが普通だろ!

 システムを!


[長谷川 龍一 / エイントリアン・エルヒン]

[年齢:25歳]

[Lv.1]

[ステータス]

[スキル]

[アイテム]


 そのように心の中で叫ぶと、驚くことに本当にシステムが現れた。

 システムウィンドウを見た瞬間、古い友人と再会を果たしたかのような、涙が込み上げてきそうな感情が生まれた。

 それだけ嬉しかった。

 さらには、画面の中のシステムウィンドウと同じような姿をしていた。

 いや、同じだった。

 紛れもなく俺の知るシステムウィンドウだ。


 俺はすかさず[ステータス]へと指を動かした。


[武力:58]

[知力:??]

[指揮:??]


[所属:エイントリアンの領主]

[所属内の民心:10]


 すると、俺のステータスが表示された。やはり同じだ。

 おかげでエルヒンの能力値を確認することができた。

 エルヒンの初期武力は58だった。暴君であるとはいえ領主だ。上位貴族の出身であり、子供の頃から剣術を習っていたおかげで、一般兵士よりは上等な武力だった。

 民心は10。

 領主としての民心は兵士、家臣、領民をすべて含めたもの。つまり、最悪ということ。

 悪徳領主の名で有名だ。当然といえば当然のこと。


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