第10話 Only to you(10)

3時間ほど留守をしただけなのに、北都のデスクの書類入れは山盛りになっていた。



電話の取次ぎのメモもデスクにびっしりと置かれている。



自分の机の上も同じようになっている。



高宮は背筋が少しゾッとした。



「高宮、」



志藤が入ってきた。



「・・あ、あの、」



「ジュニアから電話もらった。 とりあえず想宝の映画制作の件。 今日までに煮詰めないとやから。 おれが一緒に行くから。 おまえ資料持って来て。」



「ハイ、」



ぼうっとしている時間も


北都を心配する時間も


全くなかった。








手術が終わったのはもうすっかり夜になったころだった。



家族は説明室に呼ばれた。



「出血を止めて、血液の塊などを取り除きました。 一命は、とりとめました。」



医師の言葉に全員がホッとした。



「しかし。 出血の範囲が広がっていて、脳が壊死した部分が広がっていました。 部分的には・・このあたりです。」



CT写真を指差しながら言った。



「・・脳の右半分がやられていますので。 左半身に運動機能などの障害が出るかもしれません、」



「障害・・」



真太郎は小さな声をあげた。



「どの程度なのか。 意識を取り戻してからでないとわからないのですが。 まだ意識を取り戻すまでには時間がかかるかもしれません、」



震える母を南は背中に手を置いて、そっと撫でた。




「・・真也さん、」



集中治療室で管をたくさんつけられて北都は眠っていた。



ゆかりはよろよろとベッドに近づき、点滴が繋がれた手をぎゅっと握る。



その手を自分の額に充てて涙した。





あの父が



もう戻ってこないかもしれない・・




真太郎はとても信じることができなかった。




家族の付き添いがまだ許されなかったので、みんな帰ることにしたが



真太郎は病室から出た廊下のイスに座ったまま動けなかった。



「真太郎・・」


南がそっと声を掛ける。



「会社・・戻らないと。 きっとまだ高宮や志藤ちゃんたち仕事してる・・」



真太郎は何も言わずに壁に後頭部をつけ、目を閉じて宙を仰いでいた。




「真太郎、」



南がそっと肩に手を置いた。



「ん・・」



きっとみんな大変なことになってるんだろう。



それを想像して、ゆっくりと立ち上がった。

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