第10話
星屑達一行は二人の犠牲を出してようやく相手が本気で牙を剥いてきたと認識を改める。
もう二週間、友達を見ていない氷川の憔悴は酷いものだった。
肝川の方はあまり友達がいなかったこともあり、捨て置かれるのも早かったが、ハーレムメンバーである岸峰に影響が出た事がさらにパニックに拍車をかけていた。
星屑も予想以上に混乱する女達の手綱を握るのを苦労した。
戦闘班の柊木悟も少しだけ億劫そうな瞳を星屑に向けた。
「リーダー、これ以上阿久津を野放しにしておくことは余計な混乱を招くぞ?」
「分かってる。だがこちらも戦力を落とせない。もっとレベルの上げ甲斐があるモンスターを設置してくれりゃ良いのによ」
「阿久津が俺たちの為にそんな事を今までしてくれたことあったか?」
柊木が自分用にあしらえた弓の弦を張り直しながら聞く。
星屑は冗談だ、と話を切った。
もうそんな冗談も言えないくらいに現場は緊張感に包まれている。
数学教諭の権藤は今いなくなられると困る存在だ。
性格は元より、外から持ってきた野菜を成長させる能力は今の基礎生活を作っている。
ただでさえ阿久津が失踪して狩に出る時間も減った。
そもそも阿久津が居なければ外にも出られないのだ。
ダンジョン化した時に入り口の魔法陣が一切反応しなくなった。
今まで当たり前に使えていたシステムが全く使い物にならなくなったのである。
戦闘班は力を燻らせ、そして不安を煽るように女達が騒ぐ。
精神的に参ってしまっていた。
そして留まれば留まるほどに阿久津にDPを与え続けているという事実。
それが残された生徒達の恐怖を煽った。
「リーダーが行かないのなら俺と須藤で行ってもいい」
柊木の発言に、星屑は目を丸くする。
柊木の職業は〈スナイパー〉、須藤の職業は〈魔法使い(水)〉である。失うには大きすぎる戦力。
星屑は柊木の決意に待ったをかける。
「やめろ、まだお前達を失った後のことが考えられない」
「俺たちなら視察に行った二人と違って遠距離攻撃ができる。階段の上からでも攻撃可能だ。その分撤退も早い。阿久津が引き籠っちまった以上、こちらが打って出る必要があるだろう?」
星屑はやむなしと判断して柊木と須藤を見送り、女達の機嫌取りに勤しんだ。特に氷川の暴れ振りはひどいものだった。
能力の差で取り捨て選択したのは早まったかも知れない。
どうか生きて帰ってきてくれよと祈りながら氷川へ腰を落とすのだった。
◇◇◇
残されたクラスの男子は女子とよろしくやってる星屑に対して鬱憤を溜め込んでいた。
無理もない。人が死んでいるのだ。
これから自分達も死ぬかもしれない事を考慮しても童貞のまま死ぬのは嫌だ、使い古しでも良い。
そんなふうに考えていた。
「先生、今日の分の収穫終わりました」
「おうご苦労さん。星屑さんはなんて?」
「今日柊木と須藤を探索に向かわせたそうです」
「そうか。それで本人は女子達としっぽりか?」
「ええ、ここ毎日ずっとですよ。俺たちのことなんて眼中にもないんでしょう」
権藤と同じく生産の一人として組み分けされた行長は〈鍛治〉の職業を与えられている。
阿久津と同じようにその能力を搾取され続けてきたが、それもそろそろ限界を迎えそうである。
「今はまだ耐えろ。あいつを追い出す算段ができたら女子達は分け合おう」
「俺、美由紀が良いです」
「園川か。あいつおっぱいでかいもんな。よし、今のうちに他の奴らにも好みを聞いておけ。そして俺たちの作った食料を脅し文句として交渉するんだ」
「乗ってきますかね?」
「乗るしかないだろう。今や食料を生産出来てるのはここだけだ。肉の備蓄もあと少しで尽きる。こんな環境じゃ戦闘できても無用の長物よ。それにあいつらも星屑を失えば目を覚ますだろうよ。あとはお前らが男を見せてやれば良い」
この世界にやってきた男は10人。
そして女は9人。
その内男が二人居なくなり、女も一人居なくなった。
この時点で一人に一人配分されるカウントだ。
だが星屑がいる限り女がこちらに靡く可能性は低い。
女は全員星屑の子を孕っている。無理のできない状況だ。
いくら戦闘能力が高くても、こんな状況だ。分かってくれるだろうと権藤は思っている。
男の下卑た思想は女子達に向いていた。
男女が同じ比率で飛ばされた地で、独り占めしているからそうなる。
本人を目の前にして強くはいえないが、水面下では権藤教諭中心に反星屑派が結成されていた。
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