強欲ダンジョン

双葉鳴🐟

下克上ダンジョン

第1話

 強い衝撃が僕のお腹を抉る。体をくの字に曲げながら、胃液を盛大に愉快ばら撒いた。


「あーあ、きったねぇ。おいおい阿久津くぅん? お前が悪いんだぜぇ? なのになんの反省もなくその態度はなんだってんだよ!」


 数度、苛立ちをぶつける様に僕の体はサンドバッグの代わりを果たす。同じ人間にする態度とは程遠い。吐き捨てた唾が頬にかかる。


 ここは底辺だ。人生の墓場だ。

 どうしてこんなことになってしまったのか。

 あの日僕たちがこの世界にやってくる前までは……ここまではひどくなかった。

 まだ、人間扱いしてくれていた。

 でも今は違う。


 世界の職業に支配されてしまっていた。

 僕の引いた職業が、ただ魔族側だったと言うだけでこんな扱いを受けていると言うのなら、僕は悪になり切ろう。


 このまま死ぬのはごめんだ。


 動かぬ足に鞭を打ち、状態を起こす。

 吸い込んだ空気は肺に染み渡らせ、途中で酷くむせ込んだ。


 口の中が切れているのか、鉄の味がした。

 何か考えないと。この地獄から抜け出す何かを。


 この世界で生き抜く術を見つけないと。

 僕は……僕の命はなんの役にも立たずに終わってしまう。


 こんな紙切れに書かれた言葉で今までの努力が全て消える。


 ーーそんなのは嫌だ。




 ──────────────────────────


 ◎阿久津康太 

 職業:ダンジョンメーカー

 LV:2

 蓄積Dp:40

 ≪スキル≫

 ▶︎DP変換

 ▶︎フロア構築

 ▶︎トラップ設置

 ▶︎モンスター設置

 ≪召喚可能モンスター≫

 スライム:   10Dp

 ゴブリン:   50Dp

 ≪召喚可能トラップ≫

 落とし穴:   50Dp

 回転床 :   20Dp

 ≪DP変換アイテム≫

 水洗トイレ:1600Dp

 入浴場  :1000Dp

 四畳間  : 300Dp

 野菜の苗 :  20Dp

───────────────────────────



 今の僕にできることはたったこれだけ。

 唯一ステータス的なものが存在しないので戦闘では役立たず。


 そしてよくわからないDpと言うものでクラスメイトの要望を叶えている。

 口答えすれば動かなくなるまで殴る蹴るが日常茶飯事で行われる。


 僕があいつらに何をしたと言うんだ。

 けれど僕の言葉は届かない。


 諸悪の根源はたった一人だと言うのは分かっている。

 わかっているからこそもどかしい。


 ただ操られているだけだと理解しているからこそ、こうして痛めつけられた記憶が、感情が敵愾心に火をつける。


 ふー、落ち着け。敵を見誤るな。

 あいつだ、あいつさえ倒せばこの地獄は抜け出せる。

 星屑流星。

 この世界に来る前から鬱陶しかったあいつの存在さえ消して仕舞えば……僕は……


 そこまで考えて、はたと考えが止まる。


 ……本当に?

 本当にあいつを倒しただけでこの地獄は終わるのか?

 なんの確証も無い危険な賭けでは無いのか?

 ただ命令されただけであそこまで凶暴になるのか?


 理解できない。理解したくない。

 頭が恐怖に支配されそうになる。

 先程受けた傷が、その痛みが行動を鈍くする。


 逃げなきゃ。

 この傷を癒せる場所まで。

 そして今一度クラスメイトと相対しよう。


 彼らにとって僕はなんなのか。

 敵か、味方か。

 そこから決めればいい。

 それまではどうか信じさせてくれ。


 僕はそこまで思い切りよくなれない強い人間ではない。

 貰い物の力でイキれるほど哀れな人間にはなりたくなかった。

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