あの円卓の末席へ~無能の少年が英雄の末席に座るまで~

ルート

序章~石投げカルヴァン~

 その男はただの木偶の坊であった。泥の固まった上着に靴、その村では珍しい革の外套に森の恵みを詰め込み金にしてはその日暮らし。しかし、余所者であったその男にはどこか気軽であった。


 男の名はカルヴァン、根なし草のカルヴァン。彼には他の村人とは違いたくさんあるものがあった。それは時間だ。彼は森に入っては大木に唯々石を投げ続けた。子どもの遊びの方が可愛らしいだろうか。彼の石を投擲する目は村で酒を浴びているときとは目を剥く程も似ていない。

 そして、彼はその生涯の内15年を石を投げることに捧げた。


 そんなある日、秋の亭々たる夕日の下。

奴は現れた。ギガント、神話にも載る古い魔物。ごく稀に人里に現れては甚大な被害を巻き起こす。


 カルヴァンには無理だ!

カルヴァンには奴を止められない!

カルヴァンの横に誰かいたなら彼の手を引いて逃げたであろう。


 けれど彼の目にはその巨躯、そして手の中の小石しか見えてはいなかった。


 彼は駆ける、狂気を振るう巨人から離れるように。しかし、それは逃避ではなく反撃の狼煙をあげるための下準備。


 駆ける、駆ける。そして、村の門のその前で彼はその背を村に向けた。



 石を斜方に構え腕の筋の一筋まで頭に思い描く。その右に小石が一つ。乾坤一擲なれど針の剣。見るものそういうに違いない。けれどその石には彼の人生の炎が確かに宿っていた。彼の心臓は事実、投げるその時身体が無駄と断じ止まったのだから。


 献身の右は石を投じると同時に千切れた。

その石が、ギガントの右目を貫いて脳漿を撒き散らさせると同時にだ。

懸命の左を振るう時、最早音すらカルヴァンはおいてきた。

今まで耳にした言葉など嘲りと嘆息だけである。しかし、カルヴァンは知らぬ。その背をすべての村人が祈りを捧げながら見守っていたことを。


その最後の石は、胸元を貫いた。

そして一拍、ギガントの強心臓の血管は盛大に外へと血を送り出す。

脳を傷つけられ、血を失う巨体。

その身が背中から大の字に倒れるのを見守ったカルヴァンは両腕を下に落としたまま、にやけた顔でこの世を去った。


 彼の献身に学ぶなら、その命の価値を思い出せ。決死の覚悟の中に、生の喜びを抱くのだ。さすればその献身は、明日への道を開くだろう。

正義に命を捧げた者の後を追ってはならない。それは彼への侮辱となる。

 彼はその命を次の、また次の魂へと投じたのだから。

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