勇者パーティから追い出されたと思ったらカードゲーム漫画の世界だった

金髪碧眼お嬢様

第1話 決闘!勝利と敗北の讃歌

人が求めるは希望、

神が求めるは絶望。

――氾濫の使者グレイブヤード・アノニマス


「カイト、お前はクビ」


「はぁ?」


 宿屋に着いた途端、勇者ヴィクトルが急にそんなことを言った。


 「クビ。ファイヤード。解雇。つまり、これ以上この旅にお前はいらないから、帰ってってこと」


「要らないってどういうことだよ、オレはーー」


 そう言いかけるが、続く言葉は高い声に遮られた。


「要らないってゆーかぁ、ジャマってゆーか⭐︎」


 それは、女魔道士サーシャ・タナヴェルの嘲りに似た声だった。

 彼女は、人差し指を唇にあてて、その高い声で続ける。


「自分の身も防御まもれないあなたに着いてこられてもぉ……っていうかぁ⭐︎」


「確かにオレは戦闘では防御を委ねてるけど、オレが居なくて回復はどうするんだ」


「回復役は必須じゃない。どれだけ有用でも、その有用性と運用コストを比較して、コストに見合わない利益しか出さないのなら、」


 後ろからの声。少し離れたところで本を読んでいた女賢者イリスが、その冷静な口調でカイトの言葉に答える。


 そして、また、自分の前に座る勇者ヴィクトルが、


「ーー切り捨てる」


 と、付け足した。


ーーーー

ーーー

ーー


「というわけだ。帰れ」


「いきなりそんなことを言われて納得できるか!」


 声を荒げる。それに対して、ヴィクトルは、ハッと鼻で笑ったような音を出して、


「いきなり? お前にとってはそうなのか? お前の防御にリソースを裂くために、俺にかけられていたサーシャの防御魔法が途切れた」


「ま、そんなことでヴィクトルが攻撃を喰らうなんてあり得ないケド⭐︎」


 口元で笑みを浮かべたサーシャが口を挟む。


「だけど」


「しつこいな、ここは俺のパーティで、俺がリーダーだ。そんなに文句を言いたいなら」


 ヴィクトルがカイトの目を見る。


「決闘だ、叩き潰して2度とその口を聞かなくしてやる」


ーーーー

ーーー

ーー


 宿屋の裏手。ゴツゴツとした地面。そばで流れる河の音が、沈黙の中で響く。


 決闘、とヴィクトルは言った。それは、争いというより、二人の人間が一本の剣と剣で勝敗を決する儀式。

 命がけだからこそ、そこにはある種の公平さが宿る。


 とはいえ、普通なら、回復専門のカイトに勝ち目はないだろう。


 ヴィクトルは、直方体の台のような物を、宿屋から持ち出した。

 サーシャも同じ物を持って、カイトの方へ運ぶ。


 決闘の舞台を仕切る神聖な仕切りだ。一度決闘が始まると、あの台よりも後方へ下がることは許されない。


 ヴィクトルは、それを自分の目の前に置き、続けてサーシャが、台をカイトの前に置く。


 よし、とヴィクトルは声を漏らす。


「準備はいいな?」


「いつでも」


「なら、行くぞ!! デッキセット!!」


 ヴィクトルはそう叫ぶと、なにやら紙の束を台の上に置き、それから、紙の束を上から何枚か手に取った。


 ん?


「なにしてるんだ?」


「え!? なんかおかしかったか!? 一、二、三……。五枚だろ?」


 ん?


「キミも早くデッキセットしなよ。というかデッキは?」


 横からイリスが声をかけてくる。『デッキ』とやらの所在を訊いてるらしい。


「『デッキ』ってなんだよ?」


「なにって……『ドラゴンロードカード』のデッキさ」


「は?」


 意味がわからない。


「あ⭐︎ 分かっちゃった⭐︎ カイト、『ロードレス』だぁ⭐︎」


「……そうか。なら、どっちか、デッキを貸してやれ」


「わたしの貸してアゲルぅ⭐︎ イリスのは扱いづらいカラ⭐︎」


「……ボクからしたら、キミらのデッキの方が単純すぎて扱いづらい」


 意味が一つも分からない。


「それじゃ、俺もデッキ変えるか。初心者相手に大人気ないもんなぁ?」


 ヴィクトルは、そういうと手に持っていたカードを山に戻して箱に仕舞った。それから別の箱から別のカードの束を取り出して、シャッフルし出した。


 次に、サーシャが俺の目の前の台に自分のカードの束を置いて、こう言った。


「五枚引いて⭐︎」


 困惑したまま、言われた通りに五枚引いた。


 引いたカードには、秀麗で緻密な絵が描かれ、上と下に数字や文字が書かれている。


「それじゃ、ジャンケン……いや、コイントスで先攻を決めるぞ。弾け」


 投げ渡された10ドミナエ硬貨を受け取る。


「え……と、投げればいいのか?」


「あぁ、表が出ればお前が先攻だ」


 頭に疑問符が浮かんでは消える。多分表を出せばいいんだな、と思い、表が出るようにコインを指で弾いた。


 目論見通り、コインは宙で3回転してカイトの手の甲に落ちた。


 コインに刻印された女王の肖像が見える。表だ。


「お前の先攻だ!! 『Let’s become perfect 』!!」


ヴィクトルが、そう、何かを宣言した。


ーーーー

ーーー

ーー


「『ドリルマン・トヒヒ』を召喚リプリゼンテイト!! ターンを終了!!」


 ヴィクトルの怒号のような宣言。


 一方のカイトは、困惑しながら、サーシャに促されるまま、山札から一枚カードを引く。


「えー、あー、大地を二つ消費して、『タクワン⭐︎マーガリン』を召喚リプリゼンテイト


「ほう、白黒の『漬物』か。ーー俺のターン! 『エビボシ』を召喚、そして先ほど出したマントヒヒでスケープに攻撃!!」


 台の上のカードを横向きにするヴィクトル。


 サーシャの言う通りに、カイトは山札の上をめくって台の端に置いた。


「これが、選定の勇者ヴィクトルのコンセントレイト……! なんて激しいんだ……!!」


 息を飲むイリス。必死でルールを飲み込むカイト。余裕そうに笑みを浮かべるヴィクトル。


 カイトにとっては、あまりにストレスフルな状況だった。


「『ショウユメツブシ』を発動オーダー! 『ペペロンチーノ・ドルチェ』を手札に」


「あれは……白のオブジェクトのコストを下げるオブジェクト……!」


「ほう……、戦場に黒い漬物を出したということは、ランチ・アファーム・コンボを決めるつもりか……」


 ヴィクトルのターンになる。


「だが、簡単にはいかない。四コスト払って、スケープから『温泉宿ハルユキ』を発動! 『T⭐︎マーガリン』を墓地ロスピタールへ!!」


「さらに『エビボシ』と『D・トヒヒ』でスケープに攻撃!!」


ーーーー

ーーー

ーー


 ヴィクトルのスケープを残り一枚にまで追い込んだカイト。

 しかし、ヴィクトルは、不敵な笑みを絶やさない。


「さすがはカイト……。よくここまで追い込んだ。だが……」


 手札をゆっくりと上に掲げるヴィクトル。


 その笑みの正体に気づき、ハッとした表情を浮かべるのは、イリス。


「足掻くがいい!! 『北極海フンボルトフンバルト』を超克ミューテート!!『存在了解クロードナス・ぺぺぺぺクウトリ』!!! 降臨!!!!」


「あれが、ヴィクトルの切札……!!」


「なんて、禍々しいの!」


 二人の少女が台の上の小さなカードに注目して、それぞれ声を挙げる。


「砕けろ……!!」


 ぺぺぺぺクウトリのカードを横向きにするヴィクトル。


「逃げて!! カイトーー!!」


 サーシャの叫び。


 カイトは、台を回り込んで、ヴィクトルの方へと歩き、


「ふんっ!!」


「うが!!」


 その鼻っ柱を思いっきり殴りつけた。


「……最初からこうすりゃ良かったんだ」


 ヴィクトルは、そのまま地面に倒れこんでしまった。手札だったカードが雪のように舞って、地面に落ちる。

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