第129話 ファクトフルネス
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「うーん、肩こりが治らない……整形外科行ったほうがいいのかな……」
3日前の放課後、硬式テニス部所属の2年生である
両親は弟の
『やれやれ、ようやく封印から目覚めることができました。これまで霊力で苦しめてしまい申し訳ありません』
「何かデジャヴ感!?」
突如としてリビングの床に現れたのは全身が半透明になっている三頭身の小さな男の子で、ざんぎり頭に和服を着ているその幽霊は床の上で正座すると私にぺこりとお辞儀をした。
『先日は姉の
「何でお姉さんと名前同じなのに名字違うのとかツッコミを入れたい所ですけど、今目覚めたってことは何か目的があるんですよね?」
真霊たその弟の幽魔たそと名乗った幽霊のプロフィールは大体分かったが、真霊たそが現れた時は非礼の波動を感知して目覚めていたのでこの幽霊も何かを感知したのだろうと思われた。
『実はこの家屋の近くに偽装の波動を感じておりまして、誰かが人と争っているようなのです。優しさと真心を旨とする者としてどうにか解決に導きたいのですが、ご協力を頂けませんか?』
「例によって早いうちに成仏して頂きたいので連れていきますね。私の肩にでも乗って貰えます?」
今日は特にやることもないので私は幽魔たそに協力することにして、玄関から家を出ると彼が指示する方向に進んでいった。
「とうじくんひどいよ! ぼくががんばってすなのおしろをつくったのに、どろだんごをぶつけてこわしちゃうなんて!!」
「こんなすなばでしろなんてつくってもあしたにはなくなってるじゃないか! そんなにおこるなよ!!」
たどり着いたのは近所の子供たちがよく遊んでいる公園で、昨今の風潮によりほとんどの遊具が撤去されていった中で数少ない遊び場となっている砂場ではお隣さんの6歳児である
「だからってぼくがつくったおしろをこわすなんてあんまりだよ! つくりなおせなんていわないからあやまってよ!!」
「うるさいな、だったらおまえもどろだんごでもつくれよ! しろなんてつくってなんになるんだよ!!」
『これは問題ですね。私には彼らの心が読めるのですが、彼らはお互い本音を隠していて、そのせいで
「幽霊って何でもありですね……」
明治時代から目覚めた割には「ヒートアップ」とか「ファクトフルネス」といった用語を知っている幽魔たそに小声でツッコミを入れる間もなく、幽魔たそは右手で虚空を切り始めた。
『ごめんな、れん。なげたどろだんごがそれてすなのしろにぶつかっちゃって、ほんとうはこわすきなんてなかったんだ』
『とうじくん、ぼくもほんとうはとうじくんとどろだんごをつくってあそびたいんだよ。きびしくせめてごめん』
「えっ?」
「れん、あきらかにぜんぶおれがわるいのにそんなふうにおもってくれてたのか……」
「ぼくこそとうじくんとなかなおりしたいってはっきりいえなくてごめん! いまからいっしょにどろだんごをつくろう!!」
幽魔たそが霊力でお互いの本音を明らかにしたことで蓮くんと
「最初はどうなるかと思いましたけど、結構いいことしましたね。その力で他にも誰か助けてあげたらどうですか?」
『いえいえ、私はあくまで幽霊の身ですので。成仏するまで人助けも悪くありませんけどね』
「あら、野掘さん。誰かとイヤホンで電話してたの?」
「いや違います、全然どうでもいい独り言なので!!」
幽魔たそを肩に載せて自宅への帰り道を歩いていた私は日曜日にデート中らしいマルクス高校2年生の
「お二人とも最近よくデートされてますよね。私彼氏とかいないのでうらやましいです」
「はははは、僕と出羽さんはあくまで高校生同士の清い仲だからね。だからこそ僕も彼女と同じ大学に進学したいと思ってるんだ」
「そうなのよ、裏羽田君って付き合っててもいきなりボディタッチとかしないからすっごく紳士的。北欧の男性顔負けのクールさで惚れ惚れしちゃうわ」
『出羽さんの胸って触ったらどれぐらい柔らかいんだろう。今度ちょっと積極的なアプローチを』
「○ね!!!」
「ぐふうっ!!」
出羽さんは幽魔たその霊力により聞こえてきた彼氏の本音に激怒すると裏羽田先輩に右フックを食らわせ、私はそこはファクトフルネスを徹底してはいけない所ではと思った。
(続く)
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