第103話 ネオコン

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。



「マッチングアプリ反対ー! SNSでの出会い反対ー!! 若者をネオコンの魔の手から救えー!!」

「そうだそうだ、恋愛に過度な自由主義は必要ない!! 古き良き恋愛の姿を取り戻せー!!」

「治定度先輩、こんな所で一体何を……」


 ある日曜日の昼、日焼け止めを買いに近くのドラッグストアに行こうとした私、野掘のぼり真奈まなは2年生で軽音部員の治定度じじょうどりょく先輩がデモ行進の列に加わっている姿を目にした。


 デモはちょうど終わりかけていたらしく、治定度先輩も私の姿に気づいてこちらに歩いてきた。


「ミス野掘、さっきのは日本国内の恋愛における新保守主義ネオコン思想の蔓延に反対するデモだったんだ。最近はマッチングアプリとかSNSでの出会いとか、恋愛に自由主義が蔓延はびこりすぎていて本当によくない」

「ええー、色々な人と出会って好みの相手を選べるのは理想的な状態じゃないんですか?」

「何を言う、そうやって恋愛に自由ばかりを求めるから女性に暴力を振るったり子供を虐待したりするような男が平気で相手を見つけてしまうんだ! そしてそんな男ばっかり女とくっ付くから俺に彼女がいないんだ! これはネオコンの陰謀に他ならない!!」

「大体仰りたいことは分かりました……」


 治定度先輩は自分に彼女がいないのはネオコンの陰謀だと信じているらしいが、それが正しいかどうかはともかくデモをした所で根本的な解決にはならないと思った。


「ただ、せっかくネオコン的な恋愛に異議を申し立てるなら、よりよい恋愛の姿を示してみてはどうですか? 対案がはっきりしていた方が主張も受け入れられやすいですよ」

「確かにそれはそうだな。ネオコンの対極にある思想といえば……よし、今度のデモではそれを取り上げるぞ! アドバイスありがとう!!」


 何かを思いついた先輩はそう言うと走り去っていき、私はどうせお見合いや合コンの推進みたいな対案だろうと思った。



 その翌週……


「メーデー、メーデー! 我々は若者をネオコンの魔の手から解放し、旧革新主義レトロリベ思想に基づく恋愛を提唱する者たちであーる!!」

「全体主義社会において女性は共同体コミューンの共有物であーる! 我々は共同体において女性を共有し、ひいては社会的弱者男性の救済を目指す者たちであーる!!」


『本日昼、千代田区の市街地において左派系の過激思想を唱える市民団体がデモ行進を行いました。市民団体は共同体における女性の共有を訴え新保守主義思想に対する批判を繰り返しましたが、女性差別的な主張に反対する市民団体がカウンターデモを行い一時は現場が騒然となりました。今回の一件に関してはデモ行進の開催を許可した警視庁の責任も問われており……』


「女性の共有とはこれまた不可思議な表現ですね。一部の文化圏でみられる一夫多妻制とはまた違うのでしょうか?」

「どっちかというと多夫多妻制かなー……」


 街頭のテレビモニターで流れているニュースを見ながら言った円城寺えんじょうじ網人あみと君に、私はそもそも恋愛に保守も革新も必要なのだろうかと思った。



 (続く)

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