第96話 幾何級数
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「おはよう宝来さん。ノートパソコン持ち込んでるなんて珍しいね」
「おはようです真奈さん。ちょっと部活で
ある朝登校した私は、同じクラスの漫研部員である宝来遵さんが教室の机に自分用のノートパソコンを置いているのを見かけた。
「今度漫研一同でパソコンゲームを制作することになって、まひるさんの協力を受けて恋愛シミュレーションゲームを作ってるんです。イラストはもちろん私が描きました」
「へえー、上手な女の子の絵だね。私はゲームには詳しくないけど、ジャンルを恋愛ゲームにしたのには何か理由があるの?」
「恋愛ゲームはイラストと文章さえ用意できれば複雑なプログラミングが必要ないので、ゲーム制作の初心者にはお勧めらしいんです。なのでまひるさんには主にデバッグをお願いする予定なんですよ」
私はゲームの中でもパソコンゲームはほとんど遊んだことがないので、興味本位で尋ねてみると詳しく事情を教えてくれた。
「といっても初心者感丸出しの作りにはしたくないんで、色々工夫してみてるんです。恋愛ゲームは物語が1年とか3年のスパンになることが多いですけど、私たちのはあえて1か月だけの物語を描くことにして、その分だけ1日1日の展開を丁寧に描写することにしました。制作の手間も省けて一石二鳥なんですけど、あと一押し何か魅力が足りないかなと……」
「な、なるほど……」
「宝来さん、何か恋愛ゲーム作ってるんだって? 俺でよければ相談に乗るよ!」
オタクの人特有のトークを続ける宝来さんに若干引いていると、高校生プロゲーマーである同じクラスの
「実はかくかくしかじかなのです。何か特有の魅力を盛り込みたいと思ってるんですが……」
「うーん、話を聞いた限りではシナリオは一本道みたいだけど、せっかく短いスパンのゲームなら選択肢で物語を分岐させてみたら? 1か月の間に思わぬ展開が複数用意されてれば意外性は十分だと思うし」
「オーソドックスですが王道のやり方ですね。……そうだ、1か月の毎日どこかで2択の選択肢があって、それに応じて結末が変わるようにすれば1日目で2ルート、2日目で4ルート、3日目で8ルートと何周でも遊べます! そうすれば楽しみ方が
宝来さんはそう叫ぶとノートパソコンにアイディアを入力し始め、1限目の授業が始まるまで作業に没頭していた。
その1か月後……
「宝来さん、シナリオ制作の進捗はいかがですか? 2147483648ルートの結末のうちまだ256ルート分しかテキストデータを頂いていないのですが」
「あああああああああ!! 万策尽きたでありますううう!!」
いつの間にかプログラム担当に昇格していた柔道部員の
(続く)
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