第68話 景品表示法

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)



「今日から新しく転校生が来られるそうですね。どのような方なのか楽しみです」

「何か国靖さんが転校してきたのがかなり前な気がするけど、確かに楽しみだよね」


 ある日の始業前、私は以前北海道の高校から転校してきた柔道部員の国靖くにやすまひるさんと共に転校生の到着を待っていた。


 今日は高校1年の私のクラスに鹿児島県から転校生が来ることになっていて、そうこうしているうちに担任の先生が転校生を伴って入室してきた。



「おはようございます、警察官をしている父の転勤のため、鹿児島県の高校から転校してきた宝来ほうらいじゅんです。今日からこのクラスでお世話になります」


 やって来た転校生はショートボブヘアが特徴的な美人で、国靖さんとは別のベクトルで真面目そうな女の子だった。


「という訳で転校生をよろしく頼む。皆、宝来さんに何か質問はないか?」

「はいはーい! 宝来さんの一番の趣味って何ですか!? スポーツ系? それとも文化系?」

「圧倒的に文化系であります! あっ、すみません。文化系です……」


 宝来さんは何やら真の性格を隠しているらしく、私はこの子も何だかんだで騒ぎを起こしそうだと直感した。



 その2週間後、私は宝来さんとそこそこ仲良くなれていた。


「真奈さん、ちょっとすみません。実は漫画研究会から部活見学に来ないかと誘われてるんですが、男子部員しかいないそうなので一人で行くのが心配なんです。部室まで付き添って貰えませんか?」

「全然いいよ。宝来さん昔から漫画描いてるんだよね」


 小学生の頃から趣味で漫画を描いてきたらしい宝来さんは噂を聞きつけた漫研から入部を打診されていたが、男子部員しかいない部活を一人で訪問するのは確かに不安だろうと思った。


 部外者の私を連れて部室を訪れた宝来さんを漫研の男子部員たちは歓迎してくれて、部室にある過去の部誌や学園祭で公開予定の新作まで私たちに見せてくれていた。



「これが今度の部誌に載せる自信作だよ。特撮のハイパー戦隊シリーズがクロスオーバーする漫画なんだ」

「へえー、素敵なコンセプトですね。この前まで放映してたスペースレンジャーとその前のジュウソウジャーの共演ですか?」


 部室に現れた美少女に緊張している様子の漫研部長は、宝来さんに戦隊ものの二次創作漫画を紹介していた。


「いや、その2戦隊だけじゃなくて過去の39作品から選抜された18戦隊も登場して、合計20戦隊が協力して悪と戦うんだ。作画がまあ大変でね」

「……それはおかしいです! 20の戦隊が共演するならタイトルにちゃんと入れないと景品表示法違反に抵触する恐れがあります! ましてや1冊500円で売るなら法令ほうれい遵守じゅんしゅは義務であります!!」

「えっ!?」

「今すぐ漫研に入部しますから、一緒に正しいタイトルに改めましょう!! 真奈さん、今日は本当にありがとうございました」

「は、ははは……」


 宝来さんは大騒ぎしながら部長と共に漫研部室の奥に消え、とりあえず入る部活が決まったようでよかったと思った。



 そして学園祭当日……


「おっ、面白そうな同人誌じゃないか。そこの女子部員さん、これも1冊500円ですか?」

「ええ、『ファイレンジャー×マグナマン×ゴーバルカン×ヴァイラマン×アルターマン×ライフマン×アクセルレンジャー×ロケットマン×ダイノレンジャー×オウレンジャー×テラレンジャー×クロノレンジャー×タンケンジャー×バキレンジャー×シュセイジャー×カイゾクジャー×ドーバスターズ×エクスレイジャー×ジュウソウジャー×スペースレンジャー 20戦隊大決戦!!』も他の部誌と同様に500円です。こちらに立ち読み用の冊子がありますよ」


「宝来さんも部活を楽しまれているようで安心しました。私も『ファイレンジャー×マグナマン×ゴーバルカン×ヴァイラマン×アルターマン×ライフマン×アクセルレンジャー×ロケットマン×ダイノレンジャー×オウレンジャー×テラレンジャー×クロノレンジャー×タンケンジャー×バキレンジャー×シュセイジャー×カイゾクジャー×ドーバスターズ×エクスレイジャー×ジュウソウジャー×スペースレンジャー 20戦隊大決戦!!』を1冊購入して応援しようと思います」

「国靖さん、そんな律儀に発音しなくても……」


 漫研の売り子として頑張っている宝来さんを応援してあげようと、私も部誌『ファイレンジャー×(中略)×スペースレンジャー 20戦隊大決戦!!』を1冊買ってあげたのだった。



 (続く)

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