再最終話 そーかつ9つの誓い

 ある日の授業中、私、野掘のぼり真奈まなが暮らす東京都千代田区に巨大な円盤が降下してきた。


「うわー何だあれ! こんな人口密集地帯にわざわざ降下してくるとか迷惑極まりないぞ!!」

「皆さん落ち着いてください。まずは職員室からの指示に従って避難しましょう」


 巨大円盤に驚愕きょうがくしている梅畑うめはた伝治でんじ君を国語科の金坂かなさかえいと先生が落ち着かせようとしていたが、先生も超常的な事態に怖れおののいているようだった。



 その時、1年生の教室の後方の扉がガラガラと開き、そこから見知った顔の3人の先輩が入ってきた。



「マナ、わたくしたちの出番ですわよ! 4人であの円盤に立ち向かうのです」

「ゆき先輩、出番って一体……?」

「そない悠長に話しとる場合ちゃうで! はたこ、まなちゃんの脚頼んだで!!」

「がってんだー!」

「えっ、ちょっ、何をするんですかあああああぁぁぁぁ」


 硬式テニス部所属の2年生である赤城あかぎ旗子はたこ先輩、堀江ほりえ有紀ゆき先輩、平塚ひらつか鳴海なるみ先輩は私を取り囲むと3人で私の身体を抱えてどこかに運び去っていった。


 抵抗する間もなく私は硬式テニス部の部室まで連れていかれ、いつの間にか作られていた地下室への階段へと運び込まれていった。



 先輩たちは不自然なまでに広大な地下室にたどり着くとようやく私を地面に下ろしてくれて、立ち上がった私はそこにそびえ立っていた巨大な何かに気づいた。



「これは……巨大ヒーロー!? うちの学校の地下にこんなものが!?」


 そこに直立していた人型は目測で全高30メートルはありそうな巨人で、真っすぐに正面を見つめる2つの瞳や赤色と銀色のカラーリング、これといって武器などは持っていないことからいわゆる巨大変身ヒーローだと思われた。



「いえ、こちらは系列校である私立共産大学の工学部がひそかに開発していた巨大ロボット『そーかつエックス』ですわ。そしてわたくしたちはそのパイロットなのです」

「今からうちら4人でこれに乗って宇宙人と戦うんやで! 楽しみやろ!!」

「いやちょっと待ってください、ここは巨大変身ヒーローが地球人を守ってくれるのがお約束じゃないんですか!?」

「得体の知れない巨大宇宙人なんて信用できないよー! そもそも言葉も通じないのに味方かどうか分かんないよ」

「そういうロマンのないこと言わないでください!!」


 それはそれとして私は3人の先輩に従って外付けエレベーターで「そーかつX」の胸部にあるコクピットに乗り込み、そーかつXは開いた天井からブースターに点火して出撃していった。



 校舎を飛び出したそーかつXは宇宙人の巨大円盤が降下した開発中の広場の上空に浮遊し、広場では円盤から出てきた眼鏡っ娘の宇宙人がメガホンを手に演説を行っていた。



「私は宇宙人前線司令官のバラマーキー。私たちは圧倒的な科学力をもって人類に降伏を勧告します! 今のうちに武装を解除しなさい!!」


「宇宙人って人間そっくりじゃないですか。しかもどこかで見たことのある顔ですし……」

「あー、ちょうどええわ。はたこ、あの辺に降りよか」

「分かったよー! えい」



 プチ



「にぎゃっっっ!!」



 演説を行っていた眼鏡っ娘宇宙人だが、彼女は自らの真上に着地してきたそーかつXの巨大な足に潰された。



「ちょっ、まずは話し合いとかしないんですか!? しかも踏み潰しちゃってるし!!」

「基本的人権は地球人以外を対象としていないから大丈夫だよ!」

「そんな特撮番組の悪い味方みたいなことを……」


 前線司令官をいきなり踏み潰したそーかつXだが、巨大円盤からは新たに何かが現れようとしていた。



 ワープ技術らしき手段でそーかつXの前に空間転移してきたのは、そーかつXと酷似した巨大ロボットだった。



「あれは……宇宙人のそーかつX!?」

『その通り、私たちはあなた方地球人と同じ祖先を持つ存在。そしてあなた方をはるかに上回る科学技術を持つ存在……』


 巨大ロボットのパイロットらしい女性の宇宙人は空中にコクピット内の映像を転写して私たちに呼びかけてきて、彼女らの巨大ロボットも4人乗りのようだった。



『私は宇宙人四天王の一角、デワノーカー! このシホンシュギラスで地球人を屈服させてみせるわ!!』

『宇宙人四天王の一角、グレーター! 地球の美味しい野菜や果物は私たちのものです!!』

『宇宙人四天王の一角、ミシュマー! そこのスーパーロボット、正々堂々とした戦いをしようではありませんか!!』

『前略、ウツダー……こんな辺境の惑星に飛ばされて、私たちはもう終わりなのよ……』



「はたこ、あれで一発やったって」

「りょーかい、次元総括砲じげんそうかつほう! ほいっ」



 ドーン!!



『『ギャーーー!!』』



 はたこ先輩が操作するとそーかつXは振り上げた右腕を光り輝かせ、その瞬間に宇宙人のスーパーロボット「シホンシュギラス」は爆発した。



「いやいやいや、あの宇宙人は私たちの遠い親戚なんじゃないんですか!? いきなり殺さなくても!」

「地球人の親戚でもクローンでも宇宙人は宇宙人です。人権なんてありませんわ」

「割り切り良すぎです!!」


 そうこうしている内にそーかつXははたこ先輩の操作で必殺のそーかつレーザーを放ち、宇宙人の巨大円盤は周囲の建物を巻き込みつつ爆散した。



 これで宇宙人との戦いは終わったと思いきや……



『ふっふっふっふっ、奴らなど所詮しょせんは我々の操り人形に過ぎん。この地球という惑星は我々の太陽系侵略の前線基地とさせて頂く』


「あれは……イルカ!? でも大きすぎますよ!!」


 爆散した巨大円盤と同じ場所に空間転移してきたのは、全長50メートルはあろうかという巨大なイルカだった。



『私はブラッキ星人。これは我々の恒星系で巨大化させた地球のイルカという生物だ。今日はこのイルカに憑依して暴れ回ってくれよう!!』


 巨大イルカに憑依したブラッキ星人は器用に地面を這いずりつつ市街地を破壊し始め、これは流石に止めないといけないと思った。



「はたこ先輩、早くあのイルカを止めましょう! 武器は色々あるんでしょう!?」

「まなちゃん、イルカにはアニマルライツがあるから攻撃できないよ! 残酷なことをしたら諸外国の環境保護団体に怒られちゃうよー!!」

「んなこと言ってる場合ですか!!」


 傍観することしかできないそーかつXを尻目に、巨大イルカは千代田区の街並みを破壊していく。


 絶望的な状況に立たされた私たちだが、そこに新たな巨大生物が空間転移してきた。



『ブラッキ星人、そうはさせないぞ! 私たちもこの日に備えて地球上の生物を巨大化させていたんだ!!』

『貴様はローキ星人! 太陽系でも我々の領土拡大の邪魔をするつもりか!!』


 全長40メートルぐらいありそうな巨大なとらに憑依していたのはブラッキ星人の永遠の宿敵であるローキ星人で、巨大な虎はそう叫ぶと巨大イルカに襲いかかった。


 巨大な虎はそのまま巨大イルカに噛みつき、鋭い牙で巨大イルカの( 自粛 )を引き裂くと( 規制 )を食らい尽くし、最終的には巨大イルカの全身を( ピー )にして倒した。



 異星人同士の戦いはローキ星人の圧勝に終わり、憑依した動物を倒されたブラッキ星人は地球上から消滅していった。



『この度はブラッキ星人がご迷惑をおかけしました。この惑星を救った私の勇姿は子供たちに希望を与えたでしょうか』

「絶望は与えたんじゃないでしょうか……」


 ローキ星人が憑依した虎は超常的な力で宙に浮くとそのまま宇宙を目がけて飛んでいき、私たちは彼を見送ろうと4人揃ってコクピットを降りた。



 真っすぐに空を飛んでいく巨大な虎を追いかけながら、はたこ先輩は大声で宇宙人との約束を叫ぶ。




「そーかつ9つの誓い!


 一つ! 一度決めたマニフェストはできる限り実現させる!!

 二つ! 二枚舌を使うのは時と場所をわきまえる!!

 三つ! 三番手になっても比例代表でどうにか生き残る!!

 四つ! 四面楚歌の政局でも希望を捨てない!!

 五つ! 五里霧中の選挙区でこそ頑張って支持を訴える!!

 六つ! 六本木に事務所を持ちたい!!

 七つ! 七生報国しちしょうほうこくの覚悟で国家に貢献する!!

 八つ! 八方美人と思われても支持者を増やす!!

 九つ! 九条についてはのらりくらりと明言を避ける!!


 これが地球人と宇宙人との約束だよ!!」




「……ってこれ異星人襲来と何の関係があるんですか!?」

「あら、ヒーローものの最終回を真面目に考察しても仕方ありませんわよ?」

「各方面敵に回すのやめましょうよ!!」



 そんなこんなで、私たちの地球は守られたのだった。







「……というような演劇を文化祭でやりたいのですけど、難しいかしら?」

「そーかつXとシホンシュギラスはボディペイントで何とかするにしても、イルカと虎の被り物が面倒だよ!」

「いや、問題はそこではないのでは……」


 文化祭での各部活のレクリエーションを企画しているゆき先輩に、私はターゲット不明にもほどがあると思った。



 (完)

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