第47話 ヴィーガニズム
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「あのっ、すみません! 野掘さんって、実家がお寺のお友達がいらっしゃるんですよね!?」
「円城寺君のこと? 確かに同じクラスの友達だけど……」
ある日の日曜日、私立ケインズ女子高校硬式テニス部との交流会を終えた私はあちらの1年生部員である
灰田さんは以前から
「私、対外的にはヴィーガンってことにしてるんですけど、本当は肉アレルギーなんです。成分として含まれてるぐらいなら大丈夫なんですけど、ちゃんとしたお肉を食べると体中に
「そ、それは大変だね。でも、どうして円城寺君のことを?」
灰田さんは肉アレルギーという珍しい体質らしいが、同じクラスの
「今度硬式テニス部のOGの先輩が私たちにご飯をごちそうしてくださるんですけど、そこが高級ステーキ店なんです。お坊さんは野菜やこんにゃくをお肉に見せかけた
「確かに円城寺君はそういうの詳しそう。彼に連絡取るから、今度うちの高校に来てくれない? そこで連絡先交換してくれてもいいし」
「ありがとうございます! 本当に助かります」
灰田さんは笑顔でお礼を言うとそのままテニス部の仲間たちに合流して私と別れ、ライバル校でも友達には他ならないので私はできるだけ彼女を助けてあげたいと思った。
その数日後……
「なるほど、そういった事情ならお知恵を貸すこともできますし、すてーき店にあらかじめ相談をして精進料理のすてーきを出して頂いてもよいでしょう。ですが、少し考え方を変えてみてはいかがですか?」
「えっ、どういうことですか?」
放課後にマルクス高校の校門前まで来てくれた灰田さんと円城寺君を引き合わせると、円城寺君は彼女にある提案を始めた。
「そのお店のほーむぺーじは私も見てみましたが、野菜さらだやくりーむしちゅー、ふらいどぽてとといったお肉以外の品目もあるようです。大先輩に肉あれるぎーだと言っても信じて貰えないかも知れませんが、お肉を食べたくないということをはっきり伝えて納得して貰うのも一つの手でしょう」
「確かに、その方が後々のためにも安心できそうですよね。具体的にはどのように……?」
灰田さんは円城寺君の話を興味深そうに聞き、OGとの食事会で肉を食べないで済む方法を考案したようだった。
その翌週、私と円城寺君はケインズ女子高校硬式テニス部のOG会が開かれているステーキ店にカップルを装って潜入していた。
「皆、今日はよく来てくれたねえ! あたしが全額おごるから、好きなだけ肉を食べてくれるといいよ!!」
「ありがとうございますー! 女性の先輩が豪快にステーキをおごってくださるなんて、北欧社会のようにリベラルで素晴らしいです」
テニス部というよりは柔道部に見えるガタイのいい女性は十数年前に卒業されたOGらしく、灰田さんによると現在は体育大学を出て他の女子校で体育の先生として働いているそうだった。
例によって外国と比較しつつお礼を述べた部長の
「私はステーキAセットでお願いします! 飲み物はオレンジジュース!」
「私もそれで!」
「じゃあ、私はクリームシチューとフライドポテトとグリーンサラダで……」
「んんー、どうしたんだい? せっかくのステーキ店なんだから、気にせずに大きなステーキを頼みなよ」
おずおずと注文を述べた灰田さんに、OGは不思議そうな表情で言った。
その反応に、灰田さんはセクシーに身体をよじらせると……
「わたしぃ、お肉って苦手なんです。何て言うか、牛さんや豚さんがかわいそうになっちゃって。カロリーも摂りすぎになるかもだし……」
「あんたバカじゃないのかい!? そんなことを言うゆるふわ女子にはこれだ! ほら肉を食いな!!」
「むぐー!! 死んじゃうー!!!」
案の定OGを激怒させて口に前菜のローストビーフを押し込まれ、白目をむいて悲鳴を上げていた。
「これは残念、女子校の先輩ということを失念しておりました。男性相手ならあれでよいと思うのですが」
「は、ははは……」
ステーキ3種盛りを美味しく頂きながら言った円城寺君に、私は菜食主義生活って大変だなあと思った。
(続く)
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