第41話 海賊版

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)



「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、今回の赤点印の福袋は『鬼退治セット』と『有名な海賊のアニメディスク』! どちらも3000円ポッキリだよ!!」


 マルクス中高では本日PTAの主催によるフリーマーケットが開催されていて、諸事情により大学を退学になってから未だに無職の赤城あかぎ点太郎てんたろうさんはこの機会にも出店を開いていた。


 点太郎さんは硬式テニス部所属の2年生である赤城旗子先輩のお兄さんで、ご本人もマルクス中高の卒業生なのでフリーマーケットに参加すること自体は問題ではないのだが……



「こんにちは点太郎さん。これ鬼退治セットの見本ですか? 何か見覚えがあるんですけど」

「やあ、君は野掘さんだね。いつも旗子と仲良くしてくれてありがとう」


 パイプ椅子に腰かけて笑顔で話す点太郎さんの足元には「鬼退治セット」の見本が並べられていて、緑と黒の市松模様の羽織にはものすごく既視感を覚えた。


 その隣には黒と銀色に塗装された模造刀も置かれていて、点太郎さんは有名な週刊少年誌作品のキャラクターグッズを勝手に売っているようだった。


「確かに子供たちが買いそうですけど、これって著作権的に大丈夫なんですか?」

「大丈夫、市松模様は日本の伝統文化だから特定の誰かに著作権はないし、この模造刀も僕のオリジナルデザインだから。野掘さんにはこの海賊のアニメディスクがオススメかな」

「は、ははは……」


 私立中高のフリーマーケットで平然と著作権的に危なそうなグッズを売っている点太郎さんの姿に苦笑いを浮かべていると、後方から誰かがダッシュしてきた。



「待ちなさい! あなた、校内でこんな海賊版みたいなグッズを販売していいと思ってるんですか!? 元生徒会長として即刻立ち退きを命じます!!」

「そんなことをいきなり言われても、僕は著作権的に問題のあるグッズなんて売ってませんよ」


 現れたのは書道部所属の2年生にして元生徒会長の金原かねはら真希まき先輩で、何の権限があるのかは分からないが金原先輩は点太郎さんに即刻フリーマーケットから立ち退くよう命令していた。


「もし僕を疑うのなら、このアニメディスクを買っていってくださいよ。その上で海賊版だと判断されるなら僕も従いますから」

「分かりました。3000円払いますけど、海賊版だと分かったら返金して貰いますからね」


 金原先輩は点太郎さんの提案を受け入れて「有名な海賊のアニメディスク」と書かれた福袋を購入し、それを持って校内に入っていった先輩に私も付いていくことにした。



「こんなの、どうせテレビアニメのDVDをコピーして安く売っているに違いないわ! 手足が伸びたり泳げなかったり血流を増やしたりするんでしょう!!」

「先輩意外と詳しいんですね……」


 金原先輩はそのまま視聴覚室に入り、福袋を破くとそこからアニメディスクのケースを取り出した。


「あら、これは……」

「スペースセイバーX? 名前しか知りませんけど、確かに宇宙海賊ですね」


 福袋に入っていたのは有名な週刊少年誌作品ではなく昔のテレビアニメ「銀河の狼スペースセイバーX」の海外版Blu-rayディスクで、テレビアニメの海外版のBlu-rayは日本国内では3000円ちょっとで買えるため特に違法なものではなかった。



「私は全然知らないけど、試しに見てみましょうか。……えっ、なんてかっこいい男の人なの。こういう大人の男性って憧れちゃう」

「昔のアニメですけど今見てもかっこいいですよね」


 視聴覚室のスクリーンに投影されたテレビアニメは英語字幕こそ付いているが視聴には問題なく、金原先輩は宇宙海賊であるセイバーXの活躍に夢中になっていた。


 こうして点太郎さんが売っていたものには特に問題はないと判断され、その日のフリーマーケットは無事に終了した。



 その翌週……


「野掘さん! 私あれからスペースセイバーXのファンになっちゃって、TATSUYAでCDとDVDを借りてコピーしたわ! 新作アニメ映画も最高よ!!」

「先輩、CDはいいですけどDVDのコピーは違法ですー!!」


 自覚なく違法行為に手を出していた金原先輩を見て、私も著作物の扱いには気を付けようと思った。



 (続く)

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