第15話 ゲーム脳

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)



「あー、いいよなあ。朝日さんはいつ見てもかわいい」

「何か最近皆色気いろけづいてるよね……」


 後ろの席で机に上半身を投げ出しつつ言った梅畑うめはた伝治でんじ君は、最近になって新聞部の朝日あさひ千春ちはるさんに思いを寄せるようになっていた。



「梅畑君プロゲーマーだし、朝日さんなら面白がってくれるんじゃない?」

「それが、彼女はゲーマーは全員ゲーム脳っていう病気だと信じてるらしくて、俺じゃ絶対無理だと思う」

「ええっ、そうなんだ……」


 科学的根拠はともかく、単にゲーム好きというだけではゲーム脳の基準さえ満たさないはずだが、朝日さんがテレビゲームという文化に理解がないのは確かなようだった。


「でも、梅畑君は絶対ゲームをやめたりできないでしょ? 朝日さんにゲームのポジティブな面を伝えてみたら?」

「そうだな、チャレンジしてみる価値はあると思う。まずは自分から話しかけてみるよ」



 その翌日から、梅畑君は教室で朝日さんに話しかけるようになった。


「朝日さん、ゲームにだって人のためになるものはあるんだよ。俺のゲーム貸すから、ちょっとやってみない? 社会常識を学べるゲームなんだけど」

「私のことバカだって言いたいの?」


「実は俺、君みたいな素敵な女の子と付き合えるように恋愛シミュレーションゲームで勉強してるんだ。ほら、この子とか朝日さんに似てるでしょ」

「梅畑君……現実とフィクションの区別が付かなくなってない?」


「俺、朝日さんと夜の(ゲーセンで)格闘(ゲーム)をできる仲になりたいんだけど」

「セクハラで訴えてもいい?」



「もう三次元の女なんて嫌いだ……」

「まあまあ、元気出して」


 教室の机に突っ伏してしくしくと泣く梅畑君を見ながら、私は彼が振られたのは多分ゲームのせいではないと思った。



 (続く)

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