第9話 拝金主義

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)



「新たに生徒会長に選出されました堀江有紀と申します。よろしくお願い致しますわ」


 インフルエンザから回復したと思ったら今度は感染性胃腸炎で病欠している硬式テニス部長の代理として部長会議に参加した私は、見慣れた顔の美女が挨拶するのを見て沈黙していた。

 治定度会長が失踪したことで再度行われた生徒会長選挙には何を思ったかゆき先輩が出馬し、元々この高校でも間違いなく美人度ナンバー1のグラマーな女子生徒であったこともあってゆき先輩は圧倒的な得票率で生徒会長に選出されていた。


「これまで2代の生徒会長の失態により生徒会では財政収支プライマリーバランスの悪化が問題となっていますから、わたくしは発想の転換によりこの局面を打開致します。すなわち、各クラブの待遇を予算によって決めるのではなく、部員から徴収できた部費の金額に応じて各クラブの待遇を決定します。多くの部費を徴収できないクラブからは部室やグラウンドの割り当てを没収することも考えていますわ」


 ゆき先輩の述べた方針に各クラブの部長は大慌てになり、元々部員数の少ないマイナー部活の部長たちは涙目になりかけていた。



 硬式テニス部は元々部員数が多いので部費の徴収は問題なく成功し、これまでの待遇を維持することができたが、他のクラブは規模を縮小させられたり廃部になったりとそれからのマルクス高校では混乱が続いた。


 その一方でゆき先輩の思い切った改革により生徒会のプライマリーバランスは改善され、バラマキ生徒会長と自助努力生徒会長の暴走によって崩壊しかけていた生徒会は救われた。



 これで何も問題ないと思っていたのだが……


「堀江生徒会長がクラブ予算の着服により停学処分となりましたので、これより再選挙を行います」


 体育館に集められた全校生徒は、生徒会会計からのアナウンスにより例によって選挙に参加させられていた。


「マナちゃん、最近は新聞部もネタに困らなくて最高だよ!!」

「は、ははは……」


 ハイテンションで話しかけてくる朝日さんに愛想笑いを返しながら、私はこの高校にまともな指導者はいないのだろうかと思った。



 (続く)

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