第7話 バラマキ
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
「この度生徒会長に選出されました、2年D組の
マルクス高校では毎年9月初頭に生徒会長選挙があり、今年度は優等生として知られる書道部の金原先輩が生徒会長に選ばれていた。
今日は生徒会長の交代後初のクラブ部長会議が開かれていて、私、
「生徒会長としての私の理念は、クラブ間格差の解消です。現在は多くの部員を擁する運動部に予算が集中していますが、強い者がさらに強くなり、弱い者は
金原会長の理念はもっともなようでよく考えると曖昧だったが、運動部の中では人気の高い硬式テニス部の権益は守られるということなので私は何も言わずにその場をやり過ごした。
「お疲れー、朝日さん。新聞部的には金原会長の方針ってどう思う?」
部長会議には同級生にして新聞部書記長の
「クラブ間格差の解消はいいアイディアだと思うけど、新聞部って予算減らされても年間30万円ぐらい貰ってるんだよね。平等になんてできるのかな?」
「えっ、そんなに?」
朝日さんによるとマルクス高校の新聞部はこの前色々あって予算を削減されるまで年間70万円ほどの支給を受けていたらしく、硬式テニス部でも学校から貰えるのはせいぜい年間20万円なので私は彼女の話に驚いていた。
結局のところ硬式テニス部の予算は据え置きとなったが運動部は年間15万円以上、文化部は年間10万円以上というクラブ予算の基準が生徒会により策定され、ラクロス部や合気道部、チェス部といったマイナー部活の友達は予算が増えて喜んでいた。
予算が据え置かれた部活も必要に応じて補助金を受け取れることになり、部長会議の3日後、私はやはり部長の代理で生徒会室を訪れた。
「金原会長、硬式テニス部の特別支援金申請書を提出します」
「ありがとう。……OK、この金額なら支給できると思う」
「会長が予算を増やしてくださって皆喜んでますけど、あれって何とかなってるんですか? うちの高校はそんなにお金持ちでもないような……」
マルクス高校は私立高校の中では貧乏な部類に入るので、私は率直な疑問を生徒会長にぶつけてみた。
「大丈夫よ、野掘さん。私たちはクラブ間格差の是正のため、校内に学校債制度を導入したの。学校債を先生方に自腹で購入して貰って、そのお金をクラブ予算に充てているってわけ」
「それって、借金ってことじゃ……」
「心配ないわ!
「は、はあ……」
その理論が成り立つのは通貨を自前で発行できる国家のみだった気がするが、こういう人に意見すると色々と面倒なので私は黙っておいた。
それから1か月後……
「金原生徒会長は
体育館に集められた全校生徒は、生徒会会計からのアナウンスにより再び選挙に参加させられていた。
「マナちゃん、金原先輩って最近は登校する度にMMT、MMTって謎の言葉を呟いてるんだって! これは新聞部の記事にしない手はないね」
「は、ははは……」
嬉しそうに話しかけてくる朝日さんに愛想笑いを返しながら、私はバラマキにもある程度の根拠は必要なのだろうと思った。
(続く)
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