8:春日春
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春日 春はコンビニで悩んでいた。
クリスマスの夜もピークを迎え終わりかけている午後10時。
春日はコンビニスイーツであるケーキを前にどれを買おうかと心底悩んでいたのだ。
「(チョコにしてもショートケーキにしても、どっちも2つ入りかぁ。さすがに2つもいらないしなぁ)」
春日は「むむむ」とひたすら2つ入りのケーキを前に買うべきかどうすべきか考えていた。
「1個でいいんだけどなぁ」
結局、エレベーターから無事救出されたあの後。
既に2時間の時間が経過していた事もあり、やはり会社の宮野が直々に発注していたモノを取りに来ていたらしい。
エレベーターが止まっている事を相手会社から聞いた宮野は、多分その中に春日が居る事もすぐに察し、すぐに行動を起こしたようだった。
ご丁寧に春日の携帯へとメールまで送られてきていた。
『発注してた資料は全部受け取った。早くこっちに戻って来い』
それを見た瞬間、春日はホッと息をつくと、すぐにエレベーターから救出された事を伝える為に宮野に電話をかけた。
報告・連絡・相談は絶対だと常々宮野からも言われている。
報告、報告と意気揚々と電話をかけた春日だったが、宮野は電話に出た瞬間激しく怒鳴り散らした。
『テメェ呑気に電話してきてんじゃねぇ!いい加減こっちはてんてこまいだっつってんのに!早く戻って来い!手伝え!』
『はっ、はい!』
春日は宮野のおきまりの怒鳴り声に反射的にすぐにその場を駆けだすと、駅まで走ってすぐに電車に飛び乗った。
帰りは辺りが大分暗くなったせいもあり、やはり夕方異常にイルミネーションの存在が美しく光輝いていた。
そして、たくさんのカップル達の間をすり抜け「得したなぁ」なんて一人ごちながら、職場に戻ったのだ。
最後に一言太宰府に挨拶をして帰りたかったが、どうやら太宰府も電話中のようで声をかける事ができなかった。
しかし、なんとも奇妙な密室空間で太宰府と共に過ごした2時間近くは、春日にとって今年一番の「得したなぁ」でもあった。
それはもう、駅前にあるイルミネーションを見れた事など比ではないくらい。
こういう新しい出会いがあるのはワクワクする。
結局、仕事は無事に終わり8時過ぎには宮野から「帰っていいぞ」というお許しが出た。
故に、昼間春日が思っていた通り、今日は家で一人ひっそりクリスマスでもしようとコンビニでケーキを見ているのだが。
「俺、そんなに言う程ケーキ好きじゃないし……2つはなぁぁぁ」
そう、春日が半ばケーキを諦めようとした時だった。
ブブブブブ
春日の携帯がポケットで揺れる。
どうやらメールのようで、相手を見れば大学の同級生で同じく中央区の別の会社に就職した友達だった。
その友人の名前は……
「甘木」
この甘木という友人からメールが来る時は必ずと言って言い程「お前ん家今から行っていい?」である。
今回のメールも案の定で、互いに彼女など居ない者同士去年のクリスマスも一緒に過ごした気がする。
どうやら、仕事でなにやら重大な失敗をしたようで、それを話したいらしい。
春日は小さく溜息をつくと、了承の旨メールの返事を打つ。
そして、すぐに顔を上げると目の前にあるチョコレートケーキとショートケーキの2つが入ったケーキのパッケージを手に取った。
「ちょうど良かったな」
春日は穏やかに微笑みケーキを片手にレジへと向かうと、もうすぐ半泣きになりながらやって来るであろう友人を迎える為に、足早に家へと向かった。
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