第162話 勝手に迎撃してくれるから

「ほ、本当に受けてくれるのですか?」

「うん。だって、リューナお姉ちゃんの実家がピンチなんでしょ? 見過ごすなんて僕にはできないよ」


 俺の善意は、決して胸の大小で決まるわけではないのだ。

 もちろん大きい方が嬉しいけどな!


「Aランク冒険者に十分な報酬を出すことはできないのですが……」

「心配しないで。別にお金には困ってないから。それにあの船を使えば、エルフの里までそんなにかからないと思うよ」


 そうして冒険者ギルドの建物を出ると、空に浮かべたままの飛行船へと乗り込んだ。


「それじゃあ出発するよ。お姉ちゃん、道案内よろしくね」

「は、はい! エルフの里はあっちです!」


 リューナが示す方角へ、飛行船を前進させる。

 どんどん速度が増していき、ベガルティアの街が一気に遠ざかっていく。


「こんなに速度が出るんですね!?」


 リューナが外を見ながら叫ぶ。

 この操舵室は前と左右に加えて、足元の一部がガラス張りになっているのだ。


「先ほどバッテリーを満タンにしたからね。実は予備魔力での運転だと、速度が制限されるようになっているんだ」

「……まるで乗ったことがあるかのような口ぶりですね?」


 乗ったことがあるどころか、自分で作ったのだ。


「あ、前方から魔物だ」

「っ! ワイバーン!? こ、こっちに向かってきますよ!?」

「大丈夫。勝手に迎撃してくれるから」


 そう言った直後、セニグランディ号に搭載された魔力砲が発射された。


 一瞬でワイバーンに直撃し、爆発。

 肉片が周囲に四散し、ワイバーンだった塊は地上へと落ちていった。


「ワイバーンが瞬殺!?」

「並のドラゴンくらいなら撃退できるよ」

「これ、そんなに危険な船だったんですか……」


 ただし、予備魔力だと省エネモードになって、速度以外にも色んなものが制限される。

 今の魔力砲も撃つことができなくなるのだ。


 もしあの盗賊団が魔力を補給できていたら、もっと酷い悪用のされ方をしていたかもしれないな。


「というか、今さらですが、何者なんですか? 見た目は赤子ですが、どう考えても中身は違いますよね?」

「ううん? 僕、見た目も中身も、可愛い赤ちゃんだよ?」

「そんなわけないでしょう……」


 そうして空を飛び続けること、三時間ほど。

 前方に見えてきたのは、小高い山々が連なる一帯だった。


「あそこです! エルフの里はあの山の奥にあります!」

「と言われても随分と範囲が広いけど、どのあたり?」

「ええと……ちょ、ちょっと待ってくださいね……。こんなふうに空から見下ろしたことがないので、すぐには……」


 リューナの案内が役に立たないので、とりあえず適当に飛び回ってみる。


「一応この船には探知機能が付いてるんだ。半径三キロメートルくらいまでなら、人や魔物を簡単に見つけられるよ」


 大勢のエルフが集まって暮らしている場所くらい、すぐに特定できるはずだった。


「……と思ったけど、この機能を使う必要もなかったかも」

「どういうことですか?」

「ほら、あそこ」


 目の前の山の、さらに向こう側にある山、その中腹辺りを俺は指さす。

 するとそこに、とんでもなく巨大な木が存在していたのだ。


「あ、あれです! あの大木が実は、巨大なトレントなんです!」


 トレントは樹木の魔物だ。

 そのため総じて非常に長寿で、中には何百、何千年も生きるような個体も存在している。


 ただ、あれほどの大きさにまで成長したトレントは、俺もほとんど見たことがない。


「間違いなくエンシェントトレントだね。しかも随分と移動しちゃったみたい」


 そのエンシェントトレントが通ったと思しき道は、栄養素を吸い尽くされてしまったようで、草木が枯れ果ててしまっている。


 そして進路の先、まだ健在な木々のせいで分かり辛いが、その足元のところに石垣や家屋らしきものが確認できた。

 きっとエルフの集落だろう。


「さ、里が……っ!?」


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