第160話 胸がめちゃくちゃ絶壁
空に浮かんだままの飛行船から、その昇降機能を利用し、地上へと降りていった。
篝火が辺りを照らす中、商人たちが目を丸くしながら口々に叫ぶ。
「何か降りてきたぞ!? あ、あれは……赤子?」
「冒険者たちが連れていた喋る赤子だ!」
「何であの赤子が……?」
驚く商人たちとは対照的に、アンジェやファナは「やっと戻ってきた」という顔で出迎えてくれた。
「遅かったじゃない。にしても、本当に空に浮いてるわね……」
「師匠、お帰り。不思議な船」
どうやら先に戻ってきたリルから、あらかじめ話を聞いていたようである。
そのリルはというと、耳と尻尾を萎れさせ、悔しそうに身体を震わせていた。
「我としたことが、あのような単純なトラップに引っかかってしまうとは……っ! 一生の不覚!」
それ、俺が作ったトラップなんだけどね?
ともあれ、やはり無事だったようだ。
「商品、全部取り戻してきたよ」
「なっ!?」
「ほ、本当だ! 確かに俺たちのものだ……っ!」
さらに俺は、一緒に降りてきた盗賊たちをその辺の地面に転がす。
まだ全員、気を失ったままである。
「盗賊団も捕まえたよ」
「う、嘘だろ!?」
「今までまったく尻尾を掴めなかった連中だぞ!? それをこんなに簡単に……っ!」
それから俺はファナたちに言った。
「お姉ちゃんたちにちょっと相談なんだけど。実は諸事情で、今からすぐにベガルティアに戻らないといけなくなっちゃったんだ。だから後の護衛はよろしくね」
俺はエルフのリューナと一緒に、ベガルティアに引き返すつもりだった。
元より商人たちは俺のことを喋れるだけの赤子としか思っていないので、俺が抜けたところで何の問題もないだろう。
「別に構わないけど……何かあったの? あの怪しい船のこと?」
「あの船は別に怪しいものじゃないよ。盗賊団がたまたま発見して、利用していた古代の魔導具だから」
「あれが魔導具……? 古代は今より魔法が発達していたって聞いたことあるけど、あんなものまで作られていたなんて……」
作ったのは俺だけどな。
「一応、こいつらは冒険者ギルドに連れてくね」
そうして盗賊たちを引き連れ、再び船へと戻る。
リューナは操舵室で待っていた。
「お待たせ、お姉ちゃん。じゃあ、今から全速力でベガルティアに行くよ」
「ありがとうございます!」
「でも一つ、お願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
「うん。この操作パネルで船を操作するんだけど、ちょっと僕には高くて。お姉ちゃん、抱っこしてもらえない?」
「そのくらいお安い御用です!」
リューナがすぐに俺を抱き上げてくれる。
『……マスター、その辺に置いてある椅子を使えばいいだけでは?』
『……そうだな。そうしておけばよかったかもしれない』
『どうされました? そのマスターらしからぬ発言……もしかして、頭でも打ったのでしょうか?』
『打ってない』
恐らく今の俺は、賢者モードに入ったような目をしていることだろう。
『だってこのエルフ、胸がめちゃくちゃ絶壁! 何の膨らみも感じられないんだぞ!』
『……やはりマスターはマスターでしたね』
そういえば、エルフという種族は、基本的に貧乳ばかりだったな。
「どうしました? 少し高さを調整した方がいいですか?」
「ううん、もう降ろしてくれて大丈夫だよ、お姉ちゃん」
どうせ朝にならないと窓口の営業が始まらないので、のんびり低速で移動。
その間に、俺は船の魔力を補充しておくことにした。
この船は魔力で動くのだが、すでにバッテリー残量はゼロになっていて、予備魔力によって辛うじて動いているような状態だった。
あの盗賊団が魔力の補充方法など知っているとは思えないし、どのみちそう遠くないうちに全機能が停止していただろう。
そうして夜が明けた頃に、船はベガルティアの上空へと辿り着いた。
ステルス機能は再びオンにしてある。
この時代にこうした飛行船の存在は一般的ではないようで、街の人たちがパニックになるかもしれないからな。
「じゃあお姉ちゃん、僕が窓口まで案内してあげるよ」
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