第158話 自分で始末すればいいのに

「だってこの船、僕が作ったから。仕組みを熟知してるのは当然でしょ」

「……は?」


 操舵室にいたのは、盗賊団の頭目と思われる男と、配下と思われる二人。

 合わせてたったの三人で、随分と寂しい人数だった。


「い、いや、てめぇみたいなガキに、こんな船を作れるはずねぇだろ! だいたい結構な年季が入ってんだ! 少なくともお前が生まれるより前に作られたに決まってるだろう!」

「本当なんだけどなぁ」

『信じてもらえるはずがないでしょう、マスター』


 呆れた様子のリントヴルムを余所に、俺は操舵室の奥へ。


「そうそう、確かにこんな感じだったっけ。来る途中も思ったけど、やっぱりあちこち作りが甘いよねぇ。まだ若い頃に作ったやつだから仕方ないけど」


 この船を作ったのは、前世の俺がまだ十代の頃だったと思う。

 飛行船の製造は初めてだったこともあって、今見ると気になる箇所が幾つもあった。


 もちろんここにいる盗賊たちは、そんな事情など知る由もなく。


「ぶ、不気味なやつだが、所詮は赤子だ! お前ら、やっちまえ!」

「「あ、俺たちっすか?」」


 急に指名を受けて、配下の二人がびっくりしている。


「……赤子くらい、自分で始末すればいいのに」

「相変わらず無駄に慎重なんすから……」

「だ、黙れっ。なんか、嫌な予感がするんだよ!」


 しぶしぶといった様子で、配下の盗賊たちが近づいてきた。


「まぁ大人しくしてろや。痛くないように殺してやるからな」

「歩いて喋る赤子とか、もしかしたら高く売れるんじゃねぇか?」

「確かに、見世物にはなりそうだぜ」

「じゃあ、とりあえず捕まえておくか」


 何やら暢気に話しているが、俺の近くに来る前に、その足がぴたりと止まる。


「あれ? 何だ? 急に足が……」

「俺もだ。一体、何が……」


 どさり。


 そのまま仲良く床の上に倒れ込む。


「おやすみ~。あとは、そっちのおじさんだけだね」

「う、動くんじゃねぇ!」

「……ん?」


 頭目は筒状の物体をこちらに向けていた。


「こいつは、強力な攻撃魔法を一瞬でぶっ放すことができる魔導具だ! そこを一歩でも動いてみやがれ! その瞬間、てめぇの小さな身体なんざ、木っ端微塵だぞ!」

「おお~、また珍しいやつ!」


 緊迫した様子の男を余所に、俺は思わず声を上げた。


 もちろんあれも俺が作ったものである。

 魔導銃といって、引き金を指で引くだけで、あらかじめ装填しておいた魔法が簡単に発動できるという便利な代物だ。


 男がほとんど担ぐようにして持っているそれは、初期の頃に作成したものだろう。


 なにせ無駄にデカい。

 最終的には片手に収まるくらいの大きさにまで、軽量化に成功していた。


「懐かしいな」

「さ、さっきから訳の分からねぇことばかり言いやがって……っ! 二度と喋れねぇようにしてやる!」


 男が引き金を引いた。

 放たれたのは凝縮された灼熱の炎。


「ほい」


 リントヴルムを一振りして、それを霧散させた。


「どうやら誰かが後から装填した魔法みたいだね」


 若い頃の俺でも、もうちょっと強力な魔法を装填できたはずだからな。


「な、な、な……」


 男はへなへなと腰を折り、その場に尻餅を突いた。


「あ、あの威力の魔法を……容易くいなした、だと……?」

「それじゃあ、この船、返してもらうね。まぁ自分で手放したものだけど」

「ひぃっ、く、来るんじゃねぇっ!」


 恐怖で頬を引き攣らせているが、別に俺は怖い赤子じゃないぞ。


「裁くのは僕の役目じゃないから。はい、おやすみ」

「~~~~っ!」


 白目を剥いて意識を失う男の脇を通って、俺はモニターに近づく。

 そして画面に手を触れながら、


「所有権を変更して」

『ピピピ……所有権を変更しますか?』

「うん」

『所有権をバンビルからレウスに変更しました』


 どうやら盗賊の親玉の名前はバンビルだったらしい。


「後は登録者になってる盗賊たちを解除して、と」


 あらかじめシステムに登録しておくと、トラップなどの排除システムが作動しなくなるのである。


「……あれ? 船の中に、登録されてない人がいたみたい」

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