第81話 見て分かんねぇのか

 まるで領主の城のような冒険者ギルドへとやってきた。

 しかも周りは高い防壁に囲まれていて、ほとんど要塞と言ってもいいかもしれない。


 門を通って中に入ると、しばらく庭というか、広場のような空間が続いており、冒険者らしい屈強な男たちが行き交っていた。


「あの辺り、訓練場になっているみたいね」

「あっちは露天商。武器やアイテム売ってる」


 建物の中に入ると、そこはボランテの街とは比較にもならない広大なロビーになっていた。


 どうやらこの建物の中には、冒険者ギルドが運営している、武器屋や道具、それに酒場や宿屋までもがあるらしい。


「何でも揃ってる」

「さすがだわ。……にしても、どの窓口に行けばいいのかしら?」

「いっぱいあるもんね」


 窓口がたくさんあって、どれが依頼者用で冒険者用なのか、よく分からないのだ。


「あそこ冒険者っぽい人が多い」

「そうね。とりあえずあの辺の窓口に行ってみましょう」


 ひとまず目についた窓口へと向かう。

 少し並んでいるようだったので、列の最後尾につこうとすると、前にいた厳つい男がこちらを振り返った。


「おいおい、嬢ちゃんたち。ここはお前らの来るようなところじゃねぇぞ」

「? わたしたち冒険者」

「そうだとしてもだ。あのCって文字、見て分かんねぇのか? ここはCランク冒険者専用の窓口なんだよ。Dランク以下の下級冒険者は向こうだ」


 どうやらこのギルドでは、冒険者のランクに応じて、対応窓口が異なっているらしい。


 よく見てみると、向こうにBランク専用らしき窓口があった。

 並んでいる様子はなく、比較的空いているようだ。


「お姉ちゃんたち、あっちみたいだよ」

「ん。確かに」

「教えてくれて助かったわ」


 親切な(?)厳つい男に礼を言って、Bランク専用の受付窓口へ行こうとしたところで、同じ男に呼び止められた。


「いやいや、そっちじゃねぇって! 下級冒険者は反対側だ!」

「違う。Bランク。これ」

「あ? 嬢ちゃんみてぇなのがBランクなわけねぇだろ――ってマジだ!?」

「あたしもよ」

「ふ、二人そろってだと……?」

「ん。これから昇格試験を受ける」

「しかもAランク候補かよ!? ……はぁ、すげぇんだな、嬢ちゃんたち。見た目だけで判断しちまって悪かったぜ。Aランクの昇格試験は超難関だって話だが、ぜひ頑張ってくれよ」


 最後は謝罪と共に応援の言葉をかけてくる。

 本当に親切な冒険者だったようだ。


「……待てよ? 今、赤子が喋ってなかったか……? いや、気のせいか」


 そんな呟きを余所に、Bランク専用の窓口へと向かう。


「Bランク冒険者の方でしょうか?」

「ん。そう」

「ではこちらへどうぞ」


 対応してくれた受付嬢は……エルフ、いや、ハーフエルフか。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「Aランクの昇格試験を受けたいんだけど。これが推薦状よ」

「確認させていただきます」


 二人が渡した推薦状に目を通してから、受付嬢は事務的に言った。


「間違いないようです。では、試験は現在、下記の日程で執り行っております。ご希望の日程をお教えください」

「直近のやつ」

「畏まりました」


 直近の昇格試験は、ボランテのギルドでも聞いていた通り、三日後に行われるらしい。

 元々それに合わせる予定でこの街に来たのである。


「それでは昇格試験の概要についてお伝えいたします」


 試験は実技のみ。

 そ内容は、当日に試験官から教えてもらうまで分からないという。


 基本的に利用する武器や道具などに制限はないが、あまりに実力に見合わないアイテムを使用した場合は、評価が落ちる可能性があるらしい。


「また、大変リスクの高い試験となっております。死亡する可能性もありますので、あらかじめご了承ください。……何か他にご質問などはございますか?」


 そこで受付嬢の視線が、ファナに抱かれた俺に向けられる。

 俺がにっこり赤子スマイルをすると、それに癒されたのか、少しだけ受付嬢の表情が和らぐ。


 ファナとアンジェには特に質問がなさそうだったので、俺が代わりに訊いてみた。


「受付のお姉ちゃん、僕も一緒に行っても大丈夫?」

「はい。第三者の助力などは禁止してはいるものの、赤子であれば問題ないかと思います。ただ、単純に危険ですので、どこかに預けておいた方がよろしいかと……あれ? 今のは誰の声……」

「僕だよ。ありがとう、お姉ちゃん」

「あ、あ、赤子が喋ってるううううっ!?」

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