第7話 孤軍バーサス援軍
鎧武者さんの次のコラボ相手は、難しいレトロゲームを配信することに定評があるミライ・ミイラさんだ。ミライ・ミイラさんは全身に包帯を巻いたVtuberで、ほかのVtuberとのコラボも多く、コラボ動画がアップされた際には、ミイラさんの身長の高さに驚くコメントであふれるのが常だった。
貸スタジオの一角に、顔にまで包帯を巻いた男性が立っている。
彼がミライ・ミイラさんだろう。
両腕が銀色に輝く義手で、つなぎ目の部分にぐるぐると包帯が巻かれていた。
「こんにちは、鎧武者エックスさん」
礼儀正しく礼をする彼に、鎧武者さんも頭を下げて返した。
「そちらの白銀の彼って、この間トラブルを起こした人だよね?」
ミライ・ミイラさんに指さされた先にいるのは、騎士・ゼット。
ポカミスで陰陽師ゾンビを増やしてしまった、自称、鎧武者エックスさんの、永遠のライバル。
あの動画でトリプルエックス研究所に捨てられてしまった騎士・ゼットを、行くところがないのなら、と鎧武者エックスさんが拾ってしまったのだった。
「陰陽師ロボゾンビと戦う技術を叩き込むために拾ったのでござる。戦力は多いほうがよいでな」
僕はミライ・ミイラさんの両腕が気になっていた。エックスオー研究所、と小さなロゴが輝いているのに、もしや、と考えを巡らせて問いかける。
「鎧武者さん、もしかして今までのコラボ相手って、全員エックスオー研究所が関わっているんですか?」
「よくお気づきになられた、激辛フラペチーノ殿。大天使キグル・ミカエル殿は翼を、おばあ殿は車椅子を、そしてミライ・ミイラ殿は両腕を、エックスオー研究所が開発してござる」
ミライ・ミイラさんは器用に指先を動かして、僕に手を振ってくれた。
アップされた動画は、最新版のパーティーゲームを騎士・ゼットと僕も入れて四人で遊ぶものだった。騎士・ゼットが弱くて、ぶっちぎりの最下位でゲームが終わったのに、ミライ・ミイラさんが大笑い。しれっと二位の座を獲得していた鎧武者さんが一言、修行が足りぬ、と呟いた声がしっかり拾われていた。
再生数はそこそこ稼げており、騎士・ゼットが大口を叩いて負ける姿に溜飲を下げるリスナーも多く、なかなかの高評価だ。
「お主は目の前の利益にばかりとらわれておるから損をするのだ。もう少しコインを貯めておれば、逆転マスに入れたものを」
「しかし、強化アイテムは買っておいて損はないぞ!」
「買いすぎであるぞ」
口論のようなゲーム談義を聞きながら帰路へつく途中だった。
「陰陽師ゾンビが発生! 繰り返す、陰陽師ゾンビが発生! ふたば総合本社ビルのエントランスに並んでいる模様!」
緊急の通信が入ったのは。
走り出す鎧武者エックスさん。ふたば総合本社ビルといえば、貸スタジオのすぐ近くだ。走るだけでも充分間に合う。
それにしても、いったいどこから陰陽師ゾンビは現れるのだろう。
僕の疑問はすぐさま解消されることとなったのだった。
総合本社ビル前のマンホール。
そこから、陰陽師ゾンビがわらわらと這い出てくるのを見たからだ。
「こやつら、普段は下水道に隠れ、獲物を見つけると足元から襲いかかるのか」
数え切れないほどの陰陽師ゾンビたちが、ビルのエントランスに向かおうと、ぎゅうぎゅうに詰まりながら進んでいる。
何ということだ、止めないと!
鎧武者エックスさんに届いた通信が、陰陽師ゾンビの数を教えてくれた。
「気をつけろ、その数、千! ビル中のコンピュータを狙って集まっている!」
鎧武者エックスさんは、予算確認! と叫んでバーチャルな画面を呼び出した。
表示される残高を見て、何かを購入。その何かは、すぐさま鎧武者さんの手元に転送されてくる。
弓矢だ。メタリックグリーンの弓矢が彼の手に収まっていた。
風を切って現れた、空飛ぶカメラが鎧武者エックスさんを撮影し始める。
今回は生放送ではなく、録画という形になるだろう。
鎧武者さんは、走り出した。
鎧武者エックスさんの体に組み込まれたアンチウイルス信号が、陰陽師ゾンビたちを刺激する。陰陽師ゾンビたちは敵意がこもった視線を鎧武者さんに向け、一斉に襲いかかってくる。
僕の隣で騎士・ゼットが、ひい、と短く悲鳴を上げていた。
「名古屋うち!」
鎧武者さんは叫んで弓を構える。目視できない速さで数え切れない矢が飛び出し、陰陽師ゾンビたちを撃ち抜いていった。
「篠つく雨!」
今度は天に向かって矢を射る鎧武者さん。
何度も何度も打ち上げられた矢たちは、やがて切っ先を下に向け、勢いよく降り注ぐ。陰陽師ゾンビたちは逃げる間もなく矢の雨に襲われた。
しかし陰陽師ゾンビたちは数で勝る。五十体ほどやられたところで、残りの九百五十体が怒涛の勢いで、鎧武者さんに飛びかかっていった。
ぎりぎりまで弓矢でゾンビを撃ち抜いていた鎧武者さんも、数の暴力には負けてしまう。鎧武者さんに組みつき、投げ飛ばし、コンピュータウイルスに感染させようと腕を伸ばしてくるゾンビたち。
鎧武者さんが抵抗しようと構えた弓を叩き落とし、陰陽師ゾンビがなだれ込んでいく。いけない、このままじゃ鎧武者さんが!
「もしもし、キグル・ミカエルくん?」
僕の横を、高身長の男性が通り過ぎた。
「ふたば総合本社ビル前。すぐ来られる? うん、はい、待ってる」
スマホをしまい、義手をなめらかに動かすのは、ミライ・ミイラさんだ。
「ミイラさん! 危険ですから逃げてください!」
僕は彼を遠ざけようと叫んだ。陰陽師ゾンビはただの人間がかなう相手ではないからだ。なにせゾンビだ。鎧武者エックスさんのように強くなければ。
「激辛フラペチーノくんは、よくわかってないみたいだから、教えるね」
にっこりと笑ってミライ・ミイラさんが言う。包帯だらけの顔が優しかった。
「エックスオー研究所が開発したメカは、あのロボットに特効が入るんだよ」
ミライ・ミイラさんが仁王立ちする。両腕を前に突き出して、力を込めていた。
どん、と大砲のような音。
気づけば彼の両腕から先には何もなく。
左右の両腕は
スピードをつけて
陰陽師ゾンビたちに突っ込んでいくところだった。
「ろ、ロケットパンチ!」
驚く僕。吹っ飛んでいく陰陽師ゾンビたち。とっさに落ちた弓を拾い上げる鎧武者エックスさん。鎧武者さんの「篠つく雨」が陰陽師ゾンビたちに降りかかる。
背中合わせに立つ、鎧武者さんとミイラさん。
その時だった。
マンホールから、追加と言わんばかりに陰陽師ゾンビたちが湧いて出たのは。
戻ってきた両腕をガチリと装着して、ミライ・ミイラさんが口を開く。
「鎧武者さん、バテてる?」
「なんの、これしき」
わらわらと数を増す陰陽師ゾンビたちを前に、彼らが不敵に笑んでいる……気がした。
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