【FGA:16】3人組


「がはははっ! あれはお前さんが悪いだろうよ? あんな『いかにもトラップ張ってますよ〜〜?』とでも言いたげなドリブル突いてるあんちゃんに突っ込んでいったんだからよ!」



 美しい夕日が見えるテラスがあるカフェ・レオナイルに高笑いが響く。

 "むすっ"と口を尖らしながら苛立ちを貧乏ゆすりに表す亜蓮(再び魂状態)に雷人が「まあまあ」とフォローを入れながら、今夜の夕食か──レタスやトマトが挟まれた色とりどりのサンドウィッチを口に運ぶ。「シャキシャキ」とその新鮮さを強く訴えかけてくる様に──口内でレタスがフレッシュな演奏会をする。



「わりぃけどオレは焦らされ方には慣れてねぇんだよ……大学カレッジじゃ血気盛んなヤツばっかであんな……なコトする様なヤツは居な──いや、居たかもしんねぇけど……てかオマエラ誰だよ!」



 "がっ"と赤い炎から紫の炎に変わる亜蓮にそう聞かれた人間──否、人間であるが。

 "亜蓮が悪い"と高笑いをした大柄な体躯を持ち立派な髭を蓄える男は──「悪い悪い。俺は"ジョー・エンズ・バードって言うんだ。で、こっちは……」と言いながら指を刺したこっちも大柄な体格を持つ──"ジョー"と名乗った男よりかは幾分かさわやかな雰囲気のとれるルックスを持つ男は静かに「エンジャミ・ビッド・サイモンだ」とだけ言うと目の前のご馳走ステーキにナイフを走らした。

 そして最後に1人──その大柄な男のどれよりも大きなステーキ(というかカフェなのにこんな肉料理がある事に若干の疑念を持つところではあるが)を「ガツガツ」とかっこむ──その大柄な男たちとは真反対の小さい背丈を持つ少女は特に名乗らず「あっ」と何かに気づいた、否、思い出したかの様に肉の破片が散らばる服のポケットから紙を3枚取り出すとテレサを呼び鈴で呼んだ。



「はいはーい。て、あれ? ジョーさんにエンジャミさん、それにプリドさんじゃないですか、久しぶりですね!」



 テレサは「いつお店にいらしたんですか?」と"プリド"と呼ばれた少女に訊ねると「ん、今さっき。テレサがちょっと店番外れてた時」とだけ言い、"ずいっ"と先ほど肉汁塗れる上着のポケットから取り出した3枚の紙をテレサに手渡した。

 テレサは「何ですかこれ?」とクエスチョンマークを頭上に浮かべながらその紙を受け取り紙面に書かれている文字を見ると──見た途端、今日一の誰よりも大きい声で「あ"ぁ"〜〜〜〜!!!!」と──テーブルの上のグラスに入った水が振動するかのような錯覚さえ持つほど、叫んだ。



「んぐっ!? な、なんだよいきなり! 肉が喉の奥に詰まっちまったじゃねぇか!」



 果たしてそのじょうたいで喉という概念があるのか、はなはだ疑問を持ってしまう亜蓮の言と同様に──雷人も思わず食事の手を止めるぐらいの驚きを表すとテレサも自らの失態に気付いたのか──「あ、す、すみません……」と赤面しながら周囲の客に謝った。

 テレサがその実態についての謝罪を終える頃、厨房の奥からジェラミーが「おいおいなんだなんだ!? 皿でも割ったか、ツチノコでも見つけたか?」と軽く駆け足で来たが──その驚きの原因であったテレサが大事そうに紙を抱えるのを見て「お、なんだそれ? まさかチップでも貰ったのか?」と聞いた。



「馬鹿か違えよジェリー。そいつは今日の試合の招待チケットだ。前々からテレサむすめさんに頼まれててな……俺たちの決勝試合がある日はチケット用意してくれってな」



 ジョーは濃い髭を摩りながら"にかり"と笑いテレサの頭をぶっきらぼうに撫でると「てかドケチのお前じゃねえんだからチップぐらい弾むわ!」とジェラミーに噛み付くと「ほう……? じゃあ今日はたくさんのチップを置いてってくれるんだろうな?」とこっちは"にかり"と嫌な笑いを浮かべる。

 「くっそ、やられた!」と往々にして騒ぐ彼らを尻目に──少女プリドは相変わらず勢いの衰えない食事の手を止める事なくテレサに「今日の6時からやってオレらの試合はだいたい8時だからそん時来いよ」と伝える。

 そんなやり取りを見て多少の疎外感を感じ少し淡い黄色になった亜蓮を横目に──雷人が横から「試合ってなんですか?」とエンジャミに聞く。



「あぁ……お前ら転移者なんだっけ? じゃあ知らないと思うがこの街から少し外れたところにある『アルファルファ』っていう街で3×3スリーバイスリーの大会があるんだ。俺たちは見ての通りそこに出てるチームで……今日その決勝があるんだよ」



(ストリートの大会か……日本で言うところのSOMECITYサムシティって感じかな?)



 雷人は「なるほど。ありがとうございます」と軽くエンジャミに感謝の意を示すと改めて、サンドウィッチの最後の一欠片を口に運ぶと「さてこれからどうしよっかな────



「え"!? え"ぇ"〜〜!? お、お母さん行かないの!?」



と思考を始めたが再びカフェに響くテレサの大声にかき消された。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る