第108話 デート3
『じゃあ、そろそろ行こうか。混んできたし』
「そう……だね。次、どこ行く?」
『うーん……』
俺はネットでマップを開き、何があるのかをまず確認する。
「お化け屋敷とか、どうかな」
『ああいうの怖いんじゃないの?』
「私が怖いのはお化けじゃなくてジェットコースターで……」
『じゃあ、速いのが無理なの?』
「速いのっていうか、乗り物が心許ないのが、ちょっと……」
『なるほど……』
確かに、あんな鉄の機械に身を任せるのは不安かもしれない。意識したことは無かったが……
『じゃあ、お化け屋敷行くか』
「うん。あ、でも、人並みには怖がるから……ね? 一応」
『まあ、それは俺も同じというか……』
お化け屋敷がどのようなものかにもよるが……
『とりあえず、行こう』
「うん」
そして俺たちはそのお化け屋敷の方に向かった。
ここのお化け屋敷は自分で歩いて入っていくような形で、ちゃんと決められた経路はある。その途中に色々と仕掛けがあったりして、キャストが脅かして来たりする。そういうお化け屋敷のようだった。
設定は定番の廃病院で、その奥に放置されたままのとあるカルテを持って脱出するというもの。
この遊園地の中では少し古いというか、昔ながらの遊園地にありそうなものではあった。だからなのか、ジェットコースターとは比べ物にならないほど目に見えて空いていて、ほぼ並ぶこともなく順番が回って来た。
『大丈夫か?』
「う、うん……」
大丈夫ではなさそうだった。まあ、この状況ではこれくらいの方がいいだろう。
『行くぞ』
俺はまろんの前を行き、そのエリアの中に入っていく。
まろんは俺の服の袖を少し掴み、後をついてくる。
入ってまずあったのは、病院の受付のような場所だった。もちろん辺りは暗く、薄汚れている。
その隣の空間にはソファが並べられていて、どうやら待合室のようだった。
そこには、明らかに怪しい人影がある。人影というか、人がソファの前に倒れていた。
「あ、怪しい……」
『ああ』
俺たちはその人から離れるように経路通り進んでいこうとすると、受付のカウンターに手が触れた。
その時、カウンターの下からいきなり何かが飛び出してきた。
「ぐぁぁぁぁ!」
「うわぁっ!!」
『おぅ……』
ゾンビのような灰色の肌をした人型の生命体が飛び出してきて、その呻き声とまろんの叫び声が空間に響き渡る。俺は色々な意味で引くように驚いた。
『……大丈夫?』
「だ、大丈夫……」
まろんがそう答えたころには、さっきのゾンビはいつの間にかいなくなっていた。
『次、行ける?』
「うん。行かないと、終わらないし」
『そうだな』
そして俺たちは先に進む。
経路通りに進んだ先は診察室だった。
相変わらず薄暗いのだが、その部屋の中には壊れた丸い椅子と同じく壊れた背もたれのある椅子がヒビが入ったモニターがある机の前に置かれていて、経路通りに向かうのならその椅子とカーテンで囲われた治療用のベッドの間を通ることにはなりそうだが……その間は一人分ほどの間しかないほど狭く、カーテンに囲われているとか怪しすぎるし、少し怖い。
まあ、このまま進まないわけにもいかないので、俺は前に進む。
すると、なんとなく予想していた通りのことが起こる。
薄暗い中でいきなりモニターの電源が入り、そこに血が混じった手形のようなものが映し出される。
「うわっ……」
まろんは驚いて後退りするが、通路が狭いこともあってベッドにバランスを崩して、その上に手をつく。
「うっ……なんか……」
『ん?』
よく見てみると、ベッドに手をついたまろんの右手は少し濡れていた。俺もベッドの上を触ってみると、どうやらベッドの上が濡れていたようで、気持ち悪かった。
『気持ち悪いな……』
「は、早く先行こう……」
『そうだな……』
そして俺たちはさらに奥に進む。
病院のバックヤードを進み、次に待っていたのは手術室のような部屋だった。
部屋の中心部にある手術台の上には心臓のあたりがえぐり取られた人形のようにも見える人型の何かが横たわっていた。ちょうどそこにだけスポットライトが当たっていて、不気味な雰囲気が漂う。
『おぅ……』
「見てないで早く進んだ方が……というか、早く行って……!」
『わかったわかった』
まろんは俺の背中を押して、次の部屋へとすぐに移動する。まあ、確かに不気味すぎてここには長くいたくないと俺も思った。
まろんに押されて入った部屋は、どうやら倉庫のようだった。
床に書類が散乱していたり、棚が壊れていたり、倒れていたりと、荒れた部屋だった。だが、特に怪しいようなところはなく、普通といえば普通だった。
経路となっている通路だけは床が綺麗に片付けられていて、通れるようになっていた。
俺たちはそこを迷うことなく進んでいく。
「あれ……じゃない?」
『ん?』
そう言ってまろんが指さした先には小さな机があり、その机の上にはファイルが置かれていた。いかにもカルテが入っていそうなファイルだった。
「これを持っていけばいいのかな?」
『多分』
俺がそう答えると、まろんはそのファイルを手に取って、出口に向かった。
出口はものすごくわかりやすく示されていて、設定上では裏口か避難口となっている場所だった。
出口から外に出ると、そこにはここのスタッフと思われる人物がいて、まろんはファイルをその人に渡した。すると、その人はまろんに何かのチケットのようなものを代わりに渡した。
『何貰ったんだ?』
お化け屋敷から出て少し離れたところで、俺はまろんにそう聞いた。
「ポップコーン無料引換券……みたい」
『へぇ……』
「引換、行ってみる?」
『ああ』
行かない理由はない。
だが、アトラクションをクリアしてこんなものを貰えるとは思っていなかった。記念としてはいいお土産だが、こんなことをして経営として大丈夫なのかと少し心配になってしまう。まあ、俺が心配したところで何の意味も無いが。
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