天晴れ、小夏!③

「椎野、悪いけど、上脱がせておいて。湿布持ってくるから。」

ベッドにうつ伏せに俺を寝かすと、小夏にそう指示を出して、彩は部屋を出ていく。

小さい頃からしょっちゅう出入りしている、勝手知ったる俺の家だ。

湿布がどこにあるかも、彩なら知っている。

「爽太くん、ちょっと痛いかもだけど、ゴメンね。」

痛みに耐えてようやくシャツを脱いだタイミングで、彩が湿布を手に戻ってきた。

「ひどい・・・・」

俺の背中を見た小夏が呟く。

続いて、

「もっと踏んでおけばよかった。」

ドスの効いた、小夏の低い声。


いや。

それはいくらなんでも、やめてやってくれ、小夏。

あれ以上やったら、あいつ、死ぬぞ?


そう思うそばから、

「ああ、そうだな。あと5回くらいは、踏んでおくべきだった。」

彩までそんな事を言う。


この二人は、怒らせてはいけない。

絶対に。


俺はそう、強く思った。


「折れてはいないと思うけど、痛みが強くなるようだったら連絡な。病院、連れてくから。」

俺の背中に湿布を貼り終わると、彩は立ち上がった。

「病院くらい、1人で行けるよ。」

この頃には、俺もどうにか普通に喋れるようにはなっていて、確かに骨にまではいってなさそうだったのだが。

「いや、元はと言えば、あたしのせいだ。何かあったら、あたしが責任取る。」

彩は固い顔のまま、きっぱりとそう言い切る。

「あいつと、別れるよ。決着付けてくる。爽太にまで手を出されたんじゃ、さすがに許せないからな。椎野、あとは頼めるか?」

「うん。・・・・立花さん、大丈夫?」

「うん。椎野のお陰であいつ今、相当弱ってるから。」

あははっ、と笑い、彩は部屋を出ていった。



「立花さん、かっこいいね。なんか・・・・爽太くんと立花さんの関係、羨ましいな。」

ベッドの側で俺に寄り添う小夏が、ポツリと呟く。

「なんだ、嫉妬か?」

ちょっとおどけて聞いてみたのだが、

「そーゆーのじゃない。」

小夏に冷たく突き放されてしまった。

「大丈夫かな、立花さん。」


正直なところ、彩に対する小夏の本当の気持ちはわからないけど。

でも、小夏は心から彩を心配してくれている。

DV男の拳から彩を守ったのは俺ではあったが、その俺をDV男から守ってくれたのは、小夏だ。

小夏が、彩と俺を、守ってくれたんだ。


すげーよ、小夏。

天晴れだ!

俺の彼女、最高にして最強じゃね?!


「ありがとな、小夏。」

え?なにが?

そんな顔で、小夏がキョトンとして俺を見る。


訂正。

俺の彼女は、最高にして最強にして天然!


痛みが響かない腕を伸ばして小夏の手を探り当て、俺は掴んだ手をぎゅっと握りしめた。

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