第46話秋の祭典。ノルンの覚悟。
「わぁー! すっごーい!!」
リゼルは目の前の光景を見て、まるで子供のように驚いた。
ノルンも声には出さないものの、リゼルと同じくらいの感動を覚えている。
飾り付けをされた家々。
道のあちこちに設けられた露天からは、王都の市場に負けない威勢の良い声が響き渡っている。
人の往来も多く、ここがいつもは平凡な寒村であると誰が思うだろうか。
開村200周年のお祝いも兼ねた、今年の収穫祭は、周到に準備したおかげで大盛況だった。
「たしかノルン様、神木倒しに参加されるんですよね?」
「ああ」
神木倒しとは、10年に一度、一際立派な木を村の男達総出で、山の斜面から切り倒す儀式である。
特に今年は200周年なので、かなり立派なものを切り倒すようだった。
これに参加できるということは、村の一員である証らしい。
こうして暖かく迎えられていることにノルンは深く感謝する。そしてこの祭はノルンにとっても待ちに待った時である。
「じゃあ、時間まで見てまわりましょ? 私も診療所の当番時間までですけど……」
「そうだな。では、限りある時間を精一杯楽しむとしよう」
ノルンとリゼルは手を繋ぎ、雑踏の中へ踏み入っていった。
「ほう、これはなかなか……」
「お父さんが一生懸命絵付けしたんです! いかがですか?」
イスルゥ塗りの露天にはトーカがいて、可愛らしい愛想を振りまいていた。
思い起こしてみれば、リゼルがイスルゥ塗のことを教えてくれたからことが始まりだった。
これを皮切りにヨーツンヘイムは良い方向へ向かい出した。
「さぁさぁ、ヨーツンヘイムの新名物! 乾燥イシイタケで仕込んだスープだよ! どうぞどうぞ!」
「お……こりゃうめー!!」
まだキノコに関しては発展途上であるのは否めない。
しかしきっと、これらのキノコもヨーツンヘイムを豊にしてくれるはず。
改めて、キノコの知識を授けてくれた、アンクシャへ感謝する。
「ほれ! 怖くねぇから触ってみな!」
「大丈夫だって! ガザ、めっちゃ優しいもん!!」
そうガルスとジェイの親子が促すと、お客の少年は恐る恐る手を伸ばす。
「くかぁー!」
幼竜のガザは、少年に頭を撫でられて、気持ちよさそうな声をあげる。
気を良くした少年は、笑顔を浮かべながらガザを触り出した。
「くおらぁ! オッゴー! あんた雄でしょ!? ちゃんとボルとラングの喧嘩を止めなきゃだめでしょ!? お客さんが怪我したらどうするつもりよ!?」
「ガァー……」
ケイに叱られている雄飛龍のオッゴは、申し訳なさそうに伏せのポーズを取る。
彼を挟んで奥さんのボルと、後輩のラングも同じ姿勢を取るのだが、互いに目を合わせないよう鎌首を外側へ向けていた。
「キャー! キャー!」
と、そんな3匹の上では、ラングの姉竜のビグが大勢の子供を背中に乗せて緩やかな飛行を行なっている。
この祭の目玉として用意した"飛龍試乗会“は、もっぱらビグに支えられているらしい。
こうして飛龍たちと人を交流させられたのも、竜人のデルタと過ごした日々があったからこそだと思った。
それにしてもオッゴも色々と気苦労が絶えない立場になってしまったらしい。
勇者時代は同じような気持ちを味わったことがあるのでよくわかる。
近いうちにオッゴと男だけで、空を飛び回ろう。なんなら、ガンドールを交えて、一戦交えるのも悪くはない。
(オッゴ、もう少し辛抱してくれ。それまで耐えてくれ……)
ノルンはひっそり、そうエールを送りつつ、道をゆく。
「こんばんは、管理人さん。それにリゼルさんも」
と、背後から声をかけられ振り返る。
そこには、この祭のために遠路はるばる、バルカポッド妖精共和国のジャハナムから司祭としてやってきたシェザールがいた。
彼女は盆に乗せた、黒々した葡萄の房を差し出している。
「これは?」
「モニクという山の中でみつけた葡萄です。お一つどうぞ? もちろんリゼルさんも」
促されるがまま、房から一粒拝借し、口へ放り込む。
やや種が大きく、カリッとした食感と渋みがあるも、甘さは十分にあり美味かった。
「バルカポッド……厳密にはジャハナムで、なのですけども、このカベネソヴョンを使って赤ワインを醸しているんです。よろしければ、これをしっかりと栽培して、ワインを造ってみてはよろしいのではないかと思いまして」
「ワインか……なるほど。たしかにそれは面白そうだ」
「どうぞご検討ください。もしその気がございましたら、優秀な栽培醸造家をご紹介できますので……それではごきげんよう。これから舞がありますので。ふふ……」
妖精のシェザール司祭は、妖艶な笑みを浮かべつつ去ってゆく。
得体の知れない人物ではあるものの、悪人とは思えないノルンだった。
(ワインか……もしもその時、世が平和になっていたらジェスタに頼むのも悪くはないだろうな。紹介をしてくれるというシェザール司祭には申し訳ないが……)
再びノルンとリゼルは雑踏の中を歩き出す。
「あっ! あそこみても良いですか?」
リゼルは少し興奮気味に、露天へ駆けてゆく。
そこでは、木の実を加工した、アクセサリー類が売られている。
精巧な出来で、天然素材を使っているにも関わらず、良いできだと思う。
やはり、以前妹弟子のロトへ送った自作の首飾りとは雲泥の差である。
「ノルン様! これなんてどうでしょ?」
リゼルは大きな木の実をワンポイントにしたネックレスを当ててみせる。
「よく似合っていると思う。それが良いのか?」
「あっ! いえ! 買って欲しいとか、そういうのじゃ……」
「構わん。主人、幾らだ?」
ノルンは手短に支払いを済ませて、購入したネックレスをリゼルの首へかける。
「ありがとうございます! 大事にしますね!!」
リゼルは頬を真っ赤に染めながら嬉しそうに微笑んでいる。
その顔を見て、同じように首飾りを送ったときの、ロトの笑顔を思い出すのだった。
村の中心に設けられた祭壇ではシェザール司祭の舞が始まり、祭の勢いが加熱してゆく。
周囲にいた顔見知りの男達は、口々に"神木倒し“のことを話している。
そろそろあちらへ合流する頃合いなのかもしれない。
「ではリゼル、こんなところで申し訳ないが俺はこれで」
「はい! 神木倒し頑張ってくださいね!」
「ああ。ところでリゼル……」
今伝えるわけではない。
しかし緊張で胸の奥が激しく鼓動し、なかなか二の句が繋げない。
「どうかしたんですか?」
「いや、その……」
その時、心の中で生き続けている師が『何をへたれているんだ、馬鹿垂れ! お前はそんなに矮小な男なのか!』と叱ってくれたような気がした。
師の後押しを受け、ノルンは意を決する。
「神木倒しが終わったら大事な話がある! だから終わったらすぐに俺のところへ来てくれ! 頼んだぞ!」
今は一方的にそう叫ぶのが限界だった。
「わかりましたー! 大事なお話楽しみにしてまーす! 神木倒し頑張ってくださいねー!」
ノルンは気恥ずかしさを覚えつつ、集合場所であるゲマルク村長の家へ向かってゆく。
(もしリディ様が御存命だったら、及第点くらいは頂けるだろうか……)
そんなことを考えていた道中、ノルンは森から漂ってきた不穏な感覚を気取った。
(この気配は……もしや?)
間が悪い。最悪だとノルンは歯噛みする。
「おい、そこのお前!」
「な、なにか?」
突然、ノルンに呼びかけられた同じ神木倒しの参加者は怪訝な眼差しを送ってきた。
「すまないがゲマルク村長へ、俺は急用ができたので神木倒しには参加できないと伝えてくれ。頼んだぞ!」
そうノルンは一方的に頼むと、道を外れて、木々の間へ飛び込んだ。
雑嚢から
更に薪割短刀や鉈を履いたベルトを走りながら腰へ巻きつけた。
――敵の気配は近い。
(今日は皆が楽しみにしていた祭だ! しかも俺とリゼルにとって大事な日だというのに!)
ノルンは膝へ魔力を回し、夜空へ高く舞い上がる。
目下に広がる広大なヨーツンヘイムの森。
その中に、魔物感知スキルで、赤い点として識別された敵の存在が浮かび上がる。
ノルンは薪割短刀を抜き、高く掲げる。
すると刃へ風が集まり始めた。
「アサルトタイフーン!」
短刀が旋風を巻き起こし、目下の木々を、地面ごと吹っ飛ばす。
土砂に混じって、魔物の肉片が飛び散ってきた。
ノルンは、砂煙が立ち込める、木々の中へ着する。
そして短刀と鉈を構え直した。
「今日は特に容赦はせんぞ! 邪悪なる者どもよ!」
★ここから先はただの悪ふざけです(笑)
ノルン「リディ様、正直、先ほどの俺のリゼルへの言葉を評価していただきたい!」
リディ「良かろう……我が弟子よ」
ドキドキ……
リディ「あんなもの赤点ギリギリだぁ! だからお前は阿保なのだぁ!」
ノルン「――っ!? やはりそうでしたか……面目次第もございません……より精進いたします!」
リディ「まったくだ……わ、私の時はあんなにも積極的に迫って来たくせに……」
ノルン「あ、あれはその……若気の至りと申しますか……」
リディ「私だっていつでも良いんだからな!」
ノルン「……は?」
リディ「幽霊でも良ければ、だがな(笑)」
ノルン(死しても尚、破天荒なお方だ……)
*別所でのご感想へのレスを加筆修正したものです。
なんか自分で「おもしろ!」と思ってしまいましたので、つい出来心で……。
この一連の流れは本編と全く関係がございません。
ただの悪ふざけとご理解ください(笑)
ちなみにここだけカクヨムオンリーです!
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