第44話 追い剥ぎ少女、再び 1

 新しい仲間、それらと過ごす冒険生活。今までも冒険生活自体は過ごしてきたが、今のこれはまったく新しい冒険生活だった。誰もがこのパーティーに馴染み、その輪に溶けこんでいる。時折不穏な空気は漂うものの、それは一瞬の事であって、すぐにまた普通の状態、賑やかな雰囲気が戻ってきた。

 

 俺は、その雰囲気が好きだった。その雰囲気には(妙な緊張感こそあったが)、邪念らしい物が感じられなかったからだ。「周りの誰かを蹴落としてでも、自分だけは偉くなろう」とする邪念が、「自分さけ良ければ良い」と言う野心が。彼女達には、まったく感じられなかったのである。それぞれに抱く、夢らしい物はあったけどね。


「それが、とても嬉しい」


 その言葉に驚くお嬢様方。みんな、俺の方を振りかえりすぎでしょう?


「なにが?」


 返事に困った。これをこのまま言うのは、恥ずかしい。だから、苦笑いで誤魔化した。


「い、いや、別に」


 少女達は、その言葉に首を傾げた。シオンなんかは、それにポカンとしている。彼女達は俺の顔をしばらく見ていたが、やがて吹きだすように「プッ」と笑いだした。


「変なゼルデ」


 そう言われても仕方ない。でも、それが無性に嬉しかった。周りの人達からは驚かれたとしても、今の俺にはすごく嬉しい。彼女達には決して見せなかったが、一人で密かに泣いてしまった。


 人間は、情で生きている。

 情で生きているから、他人にも情をかけられる。


 あの人にもあの人なりの情はあったのだろうが、それは身勝手な、自分本位の情だった。自分の理念に従う者は残し、それに値しない者は追いだす。「合理的な視点」から考えれば、それもまた正義かも知れないが。それに付きあわされる周りは、堪ったモノではないだろう。


 たった一人の正義が、多くの人生を狂わせるのだからね。悲劇以外の何ものでもない。俺の場合は、たまたま幸運だったけれど。それだって、たまたまそうだっただけだ。全員が全員、そうだったわけではない。今はもう分からないが、俺以外にもあそこから追いだされた仲間もいる筈だ。


 あの人から無慈悲言葉を言われて。「追放」の二文字を言いわたされて。その夢を絶たれた仲間もいるかも知れない。そう思うとなぜか、やりきれない気持ちになった。「追放」と言う悪習に。そして、この世界そのものに。ただただ、イライラしてしまった。


 魔王がもし、人間の世界にケンカを吹っかけず……。


「それでも」


 そう俺に話しかけたのは、ミュシアだった。ミュシアは俺の顔から何かを察したらしく、自分の仲間達が楽しげに騒いでいる中で、俺の顔をじっと眺めていた。


「今と似たような事は起る」


「今と似たような事?」


「そう」


 それが、妙に悲しげだった。


、あるいはもっと」


「そっか、そうだな」


 確かに。人間は(ある意味では)、魔物よりも悪い生き物だ。彼女の事をさらった賊がいるように。こんな世の中でも、平気で罪を犯す人間がいるように。「魔物」と言う共通の敵がいなければ、今以上の世界になっているかも知れなかった。人間が人間を食い物にする、それこそ、地獄のような世界に。


「そんな世界で」


「ん?」


「い、いや、何でも。ただ……」


「ただ?」


「『俺の生きる意味』って言うか、それを考えてさ」


 ミュシアは、その言葉に微笑んだ。彼女と初めてあった時と同じ、女神のような笑顔で。


「意味は、無い。だから、後からついてくる」


「自分の生きる意味が?」


「それは、あなたも分かっている筈」


 そう、だな。確かにその通りだ。俺が生きる意味は一つ、あの時からずっと変わらない。


「私は、それについて行く。どこまでも」


 ミュシアはまた、「ニコッ」と笑った。それがとても可愛い。胸の奥が思わず、「キュン」となってしまった。彼女は、やっぱり特別な女の子だ。


「次は、どこに行く?」


「それは」


 俺は、自分の正面に向きなおった。俺の正面にはもちろん、町のギルドセンターが建っている。


「もちろん、この中に」


 俺は「ニコッ」と笑って、ギルドセンターの中に入った。ギルドセンターの中は、冒険者の姿で溢れている。彼等はテーブルの周りを囲んだり、クエストの段取りなどを行ったりして、それぞれの時間を過ごしていた。


 俺は、いつもの受付嬢に話しかけた。俺の姿を見つけると、俺に「こんにちは」と返してくれるウェルナに。


「クエストを受けたいんだけど。何かいいクエストは、ある?」


 ウェルナは、その質問に「ニコッ」と笑った。どうやら、いい感じのクエストがあるらしい。


「ありますよ? の討伐が」

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