第43話 己の人生を射抜け 6

 そんな経緯で新しい仲間が加わったが、それだけで話が終わるわけではない。仲間の追加には、正式な手続きがいる。町のギルドセンターに行って、その受付嬢に「それ」を伝えなければならないからだ。受付嬢のウェルナは(なぜか)複雑な顔だったが、その手続きが正式なモノである以上、それを拒む事はできなかった。


「そうですか、このパーティーに」


「うん!」


 そう言って俺の腕を掴むシオンさん、なんだかとても嬉しそう。後ろの二人は、やっぱりオーグのような顔だったけどね。あげくは、ウェルナさんも不機嫌な感じだし。もう、何が何だか分からないや。


「『そろそろ身を固めるのもいいかな?』と思ってね」


「な、なるほど」


 また、不機嫌顔のウェルナさん。俺の背中からも、殺気が伝わってくるし。これは、「カオス」と言う他なかった。俺、何も悪い事していないよね?


「それじゃ、登録はこれで終わりましたので」


 ウェルナは、俺の顔に視線を移した。何だかすげぇ怖いです。


「クエストを受けますか?」


「ああうん、そうだね。とりあえず」


「まぁったぁああ!」


 ちょ、いきなり叫ぶなよ、クリナさん。思わず「ビクッ」となっちゃったではないか。


「それを受ける前に一つ、この子をテストさせてよ」


「シオンを?」


 これは、俺。


「どんなテストをするんだ?」


 俺は不安な目で、クリナの顔を見た。クリナの顔は、邪悪な色に染まっている。これは、悪い事を考えていますね。


「それはもちろん、のテストよ」


 いやいや、「もちろん」ではないからね。だがクリナには、そんな事はどうでもよかったようだ。クリナはシオンの目をじっと見ると、挑むような顔で彼女の顔を睨んだ。


「アンタのランクは?」


「ランク? ああ、Bだよ」


「B」


 それを聞いて凹むクリナ様。いやいや、彼女は経験者なのだし。それくらいは、普通だろう。駆け出しの冒険者なら別だが、ある程度の経験を積んでいれば、それくらいになるのは当然の事だ。駆け出しの冒険者が一人で戦える程、この世界を甘くない。大抵は、死体になって返ってくる。昨日の昼には、生きていた人間が。


「そう考えると」


 アイツは、あのフカザワ・エイスケは、やっぱり異常だ。Cの冒険者がたった一人で、魔法人形の軍団を倒してしまうなど。普通に考えたら、絶対にありえない。そいつがどんなに天才でも、初心者の冒険者が……。「もしかすると」


 俺は、自分の想像に震えた。「」と言う想像に。


「じゃなかったら」

 

 そこに割りこんだのは、シオンだった。シオンは不思議そうな顔で、俺の顔を見ている。


「どうしたの?」


「え、あ、いや、何でも」


「そう。なら、さっそく」


 そう言って、俺の腕を掴む。いや、「掴む」なんてモノではない。俺の腕を引いて、ギルドセンターの中から出てしまった。


「彼女のテストを受けに行こう!」


 うん。元気がいいのは、いい事だ。いい事だけど、後ろの二人が怖すぎる。二人は俺達の事を追いこすと、一方は俺に「女たらし」と言い、もう一人は俺の腕からシオンを引きはなして、町の訓練所に荒っぽく連れていった。


 訓練所の中は、冒険者の姿で溢れていた。彼等はモンスターとの戦いに備えて、あるいは、自己鍛錬の意味を込めて、それぞれに自分の訓練に打ちこんでいる。俺達が向かった弓術場(弓術の訓練ができる場所。様々な種類の的が置かれている)の中も、シオンと同じ弓術士達の姿で溢れていた。


 クリナは、弓術場の隅にシオンを連れていった。弓術場の隅には、訓練用の的が置かれている。


「当てて」


「あの的に?」


「そう。でも、ただ当てるだけじゃダメ」


「どう言う事?」


 クリナは、その質問に「ニヤリ」とした。


「一発の矢は、ど真ん中。二発目以降は、それと同じ場所」


 な、なんと言う無茶な課題だ。「すべての矢を同じところに当てろ」なんて、鬼畜にも程がある。これには、流石のシオンも困るのではないか?


「できる?」


「できるよ?」


 即答です、何の迷いもなく即答。


「たぶん、簡単に」


「ふ、ふうん、そう。なら、見せてよ?」


「分かった」


 シオンは「ニコッ」と笑って、訓練用の弓を構えた。訓練用の弓はボロボロだが、彼女が構えると何故か様になる。そこに矢を差す時も、その動きに無駄がなかったせいか、弓から矢が放たれた瞬間はもちろん、それが的のど真ん中に刺さった時も、今までに感じた事のない感動を覚えてしまった。


「よし、次」


 次も、同じところに命中。一本目の後ろに迷わず刺さった。


「うん、じゃあ次」


 命中。


「次」


 命中。


「次」


 命中。


「これで、ラスト!」


 ラストも言わずもがな、矢の後ろに突きささった。


「やったね」


 俺は、その言葉を聞かなかった。周りの冒険者達と同じく、彼女の技量にただただ呆然としていたからだ。俺は訓練所の的をしばらく見、それからクリナの方に目をやって、彼女が「参りました」と凹んでからすぐ、シオンの方にまた視線を戻した。


「シオン」


「なに?」


「これからも、よろしく」


 シオンはその言葉に驚いたが、やがて「うん!」と笑いだした。美しい緑色の髪をなびかせて。

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